卒業研究発表

左大腿骨転子部骨折後,慢性疼痛に移行した症例

― 複合性局所疼痛症候群 ―

2015年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

左大腿骨転子部骨折を受傷され,観血的骨接合術(PFNA)施行後,左大腿骨近位部に疼痛が残存し,治療に難渋した.急性疼痛に対する治療を行ったが、疼痛の軽減に至らなかった症例を担当したためここに報告する.

症例紹介

症例は90歳代女性.中等度の認知症でリハビリへの拒否が強い.日中ベッド上で体動は見られず,傾眠が強い.転倒により左大腿骨転子部骨折を受傷された際,転移が大きく,左股関節の疼痛が非常に強く,治療介入が困難となり問題点として挙がった.

評価と治療

術後2週より初期評価・術後6週より最終評価を行った.初期評価時,左股関節屈曲時に左大腿骨近位外側部VAS7/10であり,同所に熱感が認められた.
疼痛により逃避収縮が生じ,筋の持続的な収縮により局所循環が悪化し,発痛物質が蓄積し発痛を引きおこす.また,痛みによる反射的な筋収縮によって筋紡錘は感度を高める.その結果わずかな伸張刺激でも筋は収縮し,更なる痛み刺激となり痛みの悪循環が生じると報告されている1).
そこで,痛みの無い範囲での他動運動を繰り返し局所循環の改善を目的としたアプローチを行った.

結果

最終評価時の左股関節屈曲時の左大腿骨近位外側部の疼痛はVAS8/10であり、初期より数値が上昇しており疼痛の減少には至らなかった. また,他動運動を試みる際,左下肢を把持するだけで両上肢を振って痛みを訴えるなど,過剰な痛みの訴えが見られた.左下肢に浮腫・熱感が認められた.

考察

急性疼痛は数日から2週間といわれているが,左大腿骨近位部の疼痛は減弱していない.最終評価は術後6週経っており,炎症からの急性疼痛は考えられにくい.
外傷に引きつづいて発症する複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)は慢性痛の病態の一つであり,左下肢を把持した際に痛みを訴えるのは,CPRSの症状である,軽微で非侵害性の刺激に対して痛みを感じるアロディニアに該当する.また,CRPS typeⅠは損傷の程度に比べ強い痛覚過敏を示すとともに浮腫や熱感を呈することが多い1).
これらのことから本症例は,CRPS typeⅠに当てはまり,急性痛が慢性痛に移行したことが認められる.
また,慢性痛の分類の中でも心因性疼痛の要素が強く見受けられる.骨折の転移が大きかったことから,軟部組織の損傷も大きく疼痛の程度も強かった為,その痛み体験から破局的思考に至り,痛みへの恐怖から過剰な回避行動をとり,不活動となり,慢性痛に拍車がかけられていると考える.

結語

今後の治療方針としては,身体活動量の増加や疼痛行動の軽減といった行動の変容だけでなく,認知の修正・正常化をもたらそうとする認知行動療法が有用であるとされている1).痛みへの執着を避け,ADLなどに注目し,賞賛を与えるなどしてQOLの向上につなげ,ネガティブな思考や認知の歪みを修正していくことが重要であると考える.

文献

1)千住秀明:機能障害科学入門.神陵文庫,福岡,2012,35-36,50-52,63-64.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は