卒業研究発表

環境音楽が作業遂行に与えるフロー効果

― フロー理論に着目した音楽と作業の関連分析 ―

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

音楽(テンポ,旋律)が,作業に効果を与える先行研究は多くされているが,一方で音楽の種類や作業の種類,環境設定によっては効果が得られないという報告もされている.
そこで,音楽が直接作業に影響を及ぼすのではなく,フロー経験により充実感を与えることにより,QOLを向上させる最適経験が得られるのではないかと考えた. フローとは,内発的に動機づけられた自己の没入感覚のことを指す.例えば,スポーツ選手がプレーに集中している時や,ミュージシャンが陶酔したように演奏に入り込む時などは,高いパフォーマンスが期待され,フロー状態に入っていると考えられる.
石井ら1)の研究では,フロー状態が目的的課題に与える影響についてはすでに証明されている.しかし,音楽とフロー及び作業効率の関係については未だ証明されていないため,本実験の目的としたいと考える.
近年,フロー経験は作業療法でもQOLを向上させる最適経験として研究の一つとなっている.リハビリテーション時,音楽聴取を通したフロー経験を取り込むと,作業効率とQOLの向上が期待できると考える.

対象および方法

対象者は本校,作業療法士学科学生,16名.本研究の趣旨を説明し同意を得られた者のみを対象とした.
課題は,誰しもが経験しなじみがあると考えられる,掃除とした.環境設定は本校の教室にて設定し,使用するゴミを等間隔に散りばめた.箒とちりとりを両手に持った状態で開始し全てのゴミを回収し終えた時点で終了とした.被験者には音楽ありと音楽なしの状態で二度掃除を行ってもらい,フロー質問紙の得点と作業に有した時間を比較する.データ解析方法はフロー質問紙による得点をWilcoxonの順位符号和検定により,掃除に有した時間をT検定により分析する.

結果

音楽聴取有りでの掃除時のフロー得点と,音楽聴取無しでのフロー得点をWilcoxonの順位符号和検定を用いて比較したところ有意差が認められ,音楽聴取時のフロー得点の方が総じて高いという結果になった(P<0.05).
一方で,作業効率に関しては,T検定により同様に比較したが著明な有意差は認められず,音楽聴取無しでの掃除時間のほうが効率的であった(P=0.092).

考察

音楽聴取時のフロー得点が,非聴取時に比べて高かった事の要因として,被験者の好みの音楽を実験に用いた事が考えられる.その事により,被験者は楽しく掃除を行う事ができ,作業に入り込めた事がフロー得点に影響したものと考える.フロー質問紙の質問項目でも,非聴取時に比べ聴取時に「集中できた」,「楽しかった」,「時間が早く感じた」という回答が多く見られた.
一方で,音楽聴取時の作業効率が,非聴取時に比べて優位にならなかった事の原因として,掃除作業が単純作業ではなかった事が考えられる.阿部ら2)によると,音楽が作業効率に影響を与える条件として単純作業であると効率が上がり,複雑な作業ほど音楽が影響を与えにくいという報告がされている.本実験における課題が,掃除ではなく別の単純作業だった場合には作業効率の変化が期待できたのではないかと考察した.

まとめ

フロー質問紙の得点やアンケートの結果から音楽によるフロー効果は証明されたと考える.しかし,フロー状態による作業効率の向上は認められなかった.
本実験では被験者にフロー効果が表れることを優先的に考えたため実験に用いる楽曲に規定は設けず被験者の好みの楽曲を用いた.
松田3)らによるとリズムと作業効率の相関性について報告されていることから被験者の好みの楽曲とリズムの両面から検討する必要があったと考える.

文献

1)石井良和,石井奈智子・他.目的的作業課題とフロー概念に関する考察.秋田大学医学部保健学科紀要.15(2),2007,26-33.
2)阿部麻美,新垣紀子.BGMのテンポの違いが作業効率に与える影響.日本認知科学会大会発表論文集.27,2010.
3)松田憲,一川誠・他.BGMの音楽的特徴が聴覚的時間評価に及ぼす影響.日本感性工学会論文.12,2013,493-498.

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