はじめに

診療情報管理士は，米国において歴史が一番長く医療専門職としての地位を確立しており，診療情報の電子化が進む医療機関で最も必要とされる専門職である．ライブラリーとしての診療録を高い精度で機能させ，そこに含まれるデータや情報を加工，分析，編集し活用することにより医療の安全管理，質の向上および，医療の無駄を省いて医師が行う医療行為に必要な費用を減らすために，最適な医療行為を行っているかどうかを監査するなどといった病院の経営管理も担っている専門職業といえる．
米国ではM.R.I(Medical Record Librarian)として1932年に発足し，現在はAHIMA（米国の診療情報管理士組織）によってR.H.I.A(Registered Health Information Administrator)という称号の専門職として，医療機関における情報管理者育成が行われている．また日本では民間資格であるのに対し，米国では，診療情報管理士が国家資格者として認められている．
そこで本研究では，日本と米国の診療情報管理士の業務を比較し，その違いを明らかにすることにより，日本の診療情報管理士に不足している内容，活かすべきことなどを明らかにすることを目的とした．

本論

1.日本の診療情報管理士について

1972年に日本病院協会による通信教育が開講した．1974年には診療録管理士が誕生し，1996年にはカリキュラムも大きく見直され，診療録管理士から診療情報管理士へ名称が変更された．2003年には日本病院会が診療情報管理士の英語表記をHIM（Health Information Manager）とした．また，日本の診療情報管理士の就職先は医療機関や急性期病院である．

2.日本の診療情報管理士の業務内容について

診療情報の収集，診療記録の監査，診療情報の保管，医療安全上の情報管理（事故防止に活用），診療情報の活用（資料作成，診療情報の提供），DPC業務[（診断群分類包括評価）＊日本における医療費の定額支払い制度に使われる評価方法．DPCに基づいて評価される入院１日あたりの定額支払い制度ある．] がん登録，情報の開示・提供が主な業務である．そして診療情報管理士は，医師や他の医療職種から発生する各患者の診療記録を収集，監査等の分析を行い，各部門へ結果をフィードバックする．

3.米国の診療情報管理士について

1928年に誕生した診療情報管理者(R.H.I.A　[Registered　Health Information Administrator＝米国では登録医療情報管理士と呼ばれている．]）の育成を行っている．AHIMA（American Health Information Management Association[＝米国の診療情報管理士組織])は米国診療情報管理の専門職能団体として設立された．
AHIMA公認の資格としては，R.H.I.A（登録医療情報管理者），RHIT（健康情報技術者），CCS（コーディング専門家），CCS-P（コーディング専門家[医師など]），CCA（認定分類助手）と5つの資格に大別されている．米国の診療情報管理士の就職先は医療機関，政府機関（州），保険会社，医療ソフトウェア企業など幅広い．

4.米国の診療情報管理士の業務内容について

診療情報管理，がん登録，疾病分類，外傷コード登録，医療の質向上への貢献，情報の公開，患者の診療情報管理，医師・病院に対する診療内容審査，リスク管理などが主な業務である．

結果と考察

日本と米国の診療情報管理士では認知度，活躍の場に大きく差があるということ，また業務内容においては，多少異なる内容もあるが，共通する業務も多く方針に違いがあることが分かった．その中でも米国は，AHIMA公認の資格として，各業務についての5つの資格がある．このことから，米国の診療情報管理士は担当する分野が決められており，専門的でより細かく分けられていることが分かる．
日本の診療情報管理士も米国の診療情報管理士の様に，更に専門的で高度な知識を持ち，業務を細分化することでより，職域も広がり情報管理の精度が高まると考えられる．

まとめ

本研究では，日本と米国の診療情報管理士の業務を比較し，その違いを明らかにすることにより，日本の診療情報管理士に必要なこと，活かすべきことなどを明らかにすることを目的とした．
これらの調査から，日本の診療情報管理士は，まず国家資格に認定され，認知度が上がること，そのことにより，職域が広がり，米国の様に横断的な業務を展開し，より専門的に細かく分担し，医療の質，効率を上げることが必要だと考えられた．

文献

診療情報管理士通信教育(internet):https://www.jha-e.com/top/abouts/license