卒業研究発表

ラジオ体操が心理機能面にもたらす効果

2016年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

緒言

作業療法士は地域での介護予防や職場での健康づくりに「体操」を通して関与している.しかし多くの体操が存在する中で複雑になり,選択しづらくなっている現状がある.そこで本研究では年齢,性別などに関わらず誰もが取り組みやすいラジオ体操に着目した.
先行研究として身体機能に着目した研究は数多く存在するが,心理機能に着目した研究は少なかったため,本研究ではラジオ体操の心理機能面への効果について検討する.

対象および方法

対象者は大阪医療福祉専門学校の作業療法士学科の学生に対し募集を行った.対象者数は51名(分析対象は男性25名,女性23名の計48名,平均年齢27±5.8歳)である.実験内容として被験者は日本版Profile of mood states(以下POMS)を記入し,その後ラジオ体操第一を実施した後に再びPOMSを記入する.分析方法はWilcoxon符号順位検定を使用し,ラジオ体操実施前後のPOMSの数値を比較する.倫理的配慮として被験者は事前に実験の目的及び方法について十分な説明を受け,研究参加に同意をした後に参加した.

結果

ラジオ体操実施後のPOMSの標準化得点(T得点)は緊張(T-A),抑うつ(D),怒り(A-H),疲労(F),混乱(C)の陰性因子が下がり,ラジオ体操実施前後の比較で有意差が認められた(P<0.01).また陽性因子の活気(V)はT得点が上がり,有意差が認められた(P<0.05).

考察

POMSでは陽性因子のT得点が高値で,陰性因子のT得点が低値であれば気分状態が良いとされている.本研究ではラジオ体操第一の実施後に気分状態が良くなったという結果が得られた.この要因として徳田1)の研究によると,上肢や下肢等の身体の様々な部位の筋肉を緊張させ,その後ゆっくり弛緩させる筋弛緩法において実施前後ではPOMSの怒り,緊張,抑うつの数値に減少がみられた.ラジオ体操第一は身体に力を入れる,抜くというリズムを繰り返す運動であり,筋肉の緊張と弛緩を繰り返す運動とも言えるためラジオ体操第一においても筋弛緩法と同様な結果が得られたものと考える.
 最後に竹中ら2)によると病院のベッドサイドで患者の心拍数に合わせた音楽を演奏すると自発的な会話や笑顔が見られたという報告があり,心拍数に近いテンポの音楽が気分状態を改善することを示唆している.ラジオ体操第一の楽曲はメトロノームで計測すると音楽のテンポは1分間に約70拍となる.一般的に成人の心拍数は60~100回/分とされており,ラジオ体操の楽曲は心拍数に近いテンポであるため,本研究でもラジオ体操第一の楽曲の特徴に合わせ,それに伴う運動が気分状態に良い影響を与えたと考えられる.

結語

考察により本研究においては筋緊張と弛緩の繰り返し運動,楽曲の特性が気分状態に影響を与え,ラジオ体操第一を実施することで気分状態が良くなるという効果が得られたと考えられる.今回の研究では対象者が学生であったが,臨床場面では車椅子等の座位でラジオ体操に参加する対象者も想定される.このため今後の課題としては,作業療法士が対象者と関わる臨床場面を想定した中での研究が重要であると考える.

文献

1)徳田完二:筋弛緩法における気分変化.立命館人間科学研究.13,2007,1-7.
2)竹中美佳子,奥井沙智子・他:心拍を基準としたテンポのリズム聴取による生理反応に関する研究,臨床教育心理学研究.31(1),2005,43-55.

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