卒業研究発表

認知症の情報提供後における趣味活動と予防行動変容との関連

― 作業療法介入への方向性の検討 ―

2016年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

団塊の世代が75歳以上となる2025年,日本の65歳以上の「約5人に1人が認知症高齢者になる」との結果が厚生労働省の調査で明らかになった.しかし,「新オレンジプラン」は社会には浸透せず,認知症に対する情報も不足,作業療法においても予防領域への貢献は十分とはいえない.一方,行動科学理論に基づく行動変容モデル(対象者のステージに応じてアプローチを変える事で行動の選択や継続を促す効果的な介入法)が近年注目されている.深堀ら¹⁾によると,「介護予防行動に関しては,自己効力感と実行負担の知覚,間接的には介護予防の知識が影響する」.片山ら²⁾によると,「趣味・余暇活動の興味を高める働きかけによって,運動無関心者の心理的準備性を高める事が可能である」と報告されている.しかし,認知症に限局した,趣味活動と予防行動に関連した行動変容についての研究は多くは見られなかった.そこで,本研究の目的として,認知症情報提供後の趣味活動と認知症予防行動の関連を明らかにし,認知症予防に対する作業療法の介入の方向性を検討する.

対象および方法

対象は大阪府内の老人保健施設の従業者,大阪医療福祉専門学校作業療法士学科学生の保護者,その他計400名(有効回答数381名)で,自記式質問紙法によるアンケート調査を行った.基本的属性(性別,就業,同居の有無),趣味の有無と種類, 認知症の知識,認知症の予防行動を行いたいか,認知症の情報について目を通した後,予防行動についてどう思うか,又,やってみたいと思う予防行動に○をつける等の内容で,趣味有,無群の2群に分けた後,χ²検定を行い,趣味と予防行動の内容の関連については単純集計を行った.又,倫理的配慮として,目的や方法の説明を書面にて行い,アンケートの回収をもって同意が得られたと判断した.なお,本研究は,大阪医療福祉専門学校倫理委員会に承諾を得て実施した.(承認番号:第15-教-22号)

結果

「予防行動を行いたいと思うか」という情報前の問いに対し,趣味有,無群において有意差は見られなかった.しかし,認知症についての情報提供後,趣味有,無群有意差が見られ,特に「一ヶ月以内に始めようと思う」という回答に有意差が見られた.(p=0.01)又,行ってみたいと思う認知症予防行動は, 62%の確率で趣味活動と関連する結果となった.

考察

 趣味のある方は前向きで好奇心がある人が多い為³⁾,性格が関係しているのではないか,趣味がある方はない方と比べ,認知機能も高く前頭前野が賦活している事から⁴⁾意欲の高い方が多いのではないか,又,趣味活動と関連した認知症予防行動もあり,「これなら出来そう」と自己効力感が向上した事が原因ではないかと考える. 作業療法の方向性として,行動変容モデルのステージが趣味の有無で異なる為,対象者に合わせた介入を行う.又,趣味がある方には関連した認知症の予防行動を提供する.結果,楽しみながら認知症の予防行動が継続し,充実した生きがいのある人生へと繋げていく事が出来るのではないかと考える.

まとめ

本研究は,認知症情報提供後の趣味活動と認知症予防行動の関連を明らかにし,認知症予防に対する作業療法の介入の方向性を検討する事を目的として,アンケート調査を行った.その結果,認知症の情報提供後,「一ヶ月以内に予防行動を始めようと思う」と回答した者は無趣味群と比べ,趣味有群の方が有意に多く,単純集計の結果,認知症の予防行動と趣味活動の内容が,62%の確率で関連している事が明らかになった.

文献

1)深堀敦子,鈴木みずえ・他:地域で生活する健常高齢者の介護予防行動に影響を及ぼす要因の検討.日本看護科学会誌.29(1),2009,15-24.
2)片山祐美,原田 弘・他:趣味・余暇活動への興味を高めることを意図した介入が運動無関心者の心理的準備性に及ぼす影響.スポーツ産業学研.21(1),2011.27-39.
3)山下一也,井山ゆり・他:地域在住高齢者の趣味と認知機能の関連.島根県立短期大学出雲キャンパス紀要.1,2007,25-29.
4)澤田辰徳,建木健・他:意味のある作業が前頭前野に及ぼす影響.作業療法.28(4),2009,367-375.

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