卒業研究発表

視覚と触覚における先入観による言語表現との関係性について

2017年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

 普段私たちは,視覚だけでは得られない物品の情報を,触ったりしながら物を把握している.筆者は,視覚と触覚での先入観について考えた.そこで今回,視覚と触覚の先入観による言語表現との関係性について着目し,研究を行った.上村ら1)によると,知覚探求能力に影響を及ぼしていると考え,CVA者実験群と健常者対象群に分け,視覚を遮断した状態で形の異なる8種の木片を指でなぞり比較検討した結果,有意差は見られなかったが,CVA者と健常者の実験中の発言の違いが見られた.健常者は「小さく感じる」など正解に近位な発言が多数であったのに対し,CVA者は「先が解らない」や,曖昧な発言が多数であった.研究の目的:視覚情報により知覚されたものに対する認知と,視覚情報+触覚知覚により知覚される違いと言語化される関係性を明らかにする.

対象および方法

 仮説:視覚情報では,色,大きさ,形,長さ,厚さは分かるが,触覚は硬さ,重さ,触った感触は分かる.これは見た目だけだと中身は解らず,触っただけだと色が解らない,という相違がでてしまう.視覚情報と感覚知覚の統合により,言語量や表出に関係性や相違点,先入観が改善されると仮説を立てた.対象:大阪医療福祉専門学校に在籍している任意で得られた作業療法士学生45名.実験方法:紙,スポンジ,ボールを用意し,視覚班,触覚班,視覚+触覚班の3班(各15名)に分け,各1分間,それぞれ感じたことを単語レベルで言語化してもらい,ボイスレコーダーに録音.言語表現による表出の違いと関係性の違いを検証.分析方法:発言された単語を分け,単純集計を行う.倫理的配慮:研究の目的,研究の方法,研究への参加の任意と同意撤回の自由,個人情報の保護に関することに同意が得られたものには,同意書に著名を頂く.

結果

 紙において視覚の場合,紙・折れているなどの曖昧な言葉が多いが,触覚ではザラザラなど素材に対する正確な言葉が多い事に対し,スポンジ・ボールは視覚・触覚共に同じ発言がみられた.3つの物品の中で一番相違があったのは紙であった.よって,先入観がある物には相違がなく,先入観がない物に相違が見られ,思った通りにならないことが分かった.

考察

 紙では視覚では紙・折れているなどの曖昧な言葉が多いが,触覚ではザラザラなど素材に対する正確な言葉が多い事に対し,スポンジ・ボールは視覚・触覚共に同じ発言がみられた.3つの物品の中で一番相違があったのは紙であり,要因としては,先入観が大きく影響しているのではないかと考えた.紙に対しては,その紙の性質に対する先入観が弱いからではないかと考え,スポンジとボールでは使用頻度などが多く,性質に対する先入観が強いからではないかと考えた.結果は,先入観がある物には相違がなく,先入観がない物に相違が見られ,思った通りにならないことが分かった.

まとめ

 3つの物品の中で一番相違があったのが紙であった.紙において,視覚では「紙」「折れている」など見かけに対する言葉が見られたが,触覚では「ザラザラ」など素材に対する言葉が多かった.また,スポンジ・ボールでは視覚・触覚共に同じ発言が多かった.この事から視覚情報がなくても予想ができ先入観が元々ある物には言語の相違はなく,視覚情報が無いと予想ができず,先入観が無い物に触覚と視覚による相違が見られたため,今回の研究では紙以外の物では思った通りにならないことが判明.
 今後の展望として,対象者でも,紙の材質や素材を変えることで触圧覚など表在感覚の入力から様々な形・要素になり触圧覚の治療へ繋げて行く.また,リハビリを行う際CLの言動からCLとの関わりにも役立てる触覚による段階付けを行い,視覚による患者の先入観を軽減できれば,社会参加を促しながら,患者の生活の質向上に繋がる.

文献

1)上村 勇介,佐藤 篤史・他:ダイナミックタッチによる知覚内容の相違についての検討~健常者と脳卒中片麻痺患者の比較~.岐阜県作業療法士会演題ポスター.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は