卒業研究発表

聴覚刺激による作業効率とストレスの関連性

2017年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

 河合ら1)の聴覚刺激(心臓音と笑い声)による心身の変化に対する研究によると,心臓音では緊張の減少や音を聞いている時の気分で,心身の安定を促し気持ちを落ち着かせる効果のある刺激であることが推察された.一方笑い声では,音を聞いている時の気分において「落ち着かない」の項目に高い値を示し,心身の自覚において「不快」の項目に偏りがみられた.このことにより心臓音は緊張がほぐれ,気持ちがくつろぐということが示唆されている.作業療法士は身体面だけでなく精神面にもアプローチする必要がある.そこで我々は作業を行う対象者に音刺激を与え,作業効率への影響と気持ちの変化を研究し,作業を行う臨床現場でのより良い環境づくりに生かしたいと考えた.

対象および方法

 大阪医療福祉専門学校の学生60名を対象とする.音楽あり群30名,音楽なし群30名とし無作為で2群に分けた. iphone6を3台,iphone付属のイヤホンを3個用意し、イヤホンをさして被検者に装着してもらう.音楽あり群では合掌ら2)が最もリラックスできる音楽と示唆したグリーグのベルキュント組曲“朝”を導入部から音量7で流す.一方音楽なし群では音量設定は行わずに実施する.課題はまちがい探し(10個のまちがいがあるもの)で制限時間を30秒とし,制限時間以内に見つけた数で単純集計を行う.その後,厚生労働省 職業性ストレス簡易調査票(57項目から12項目抜粋)のアンケートを実施し,χ2検定にて集計し分析した.

結果

 本研究の結果から,作業効率として間違い探しの正答数は音あり群,なし群ともに9問が最高の正答数であり,その他正答数においても優位差は見られなかった.次にストレス状態のアンケート結果を図1に示す.+が音あり,-がなしである.質問項目はNo.1から順に活気が沸いてくる,元気がいっぱいだ,イライラしている,ひどく疲れた,だるい,気がはりつめている,不安だ,落ち着かない,物事に集中できない,作業が手につかない,首筋や肩がこる,目が疲れるである.これらのうちNo.7の“不安だ”という項目に音なし群が高い値を示し,p値が0.0114と優位差がみられた.

考察

 結果としては作業効率とストレス状態どちらにも大きな優位差は見られなかった.これは作業を行う臨床現場での聴覚刺激は,作業効率やストレスへ影響する可能性はきわめて低いと考える.また,リラックスできる音楽を聴くことでストレスを感じずに効率よく作業が行えると考えた.今回の研究で優位差がなかった理由を分析すると,心理的要因が挙がった.作業を行う前のストレス状態は個人差があると推定し作業前に短い課題を行い,一定のストレスをかけた状態で実験を行うとストレスが軽減され,臨床現場での関わりと結び付けやすくなるのではないかと考える.

まとめ

 作業中の聴覚刺激の有無では作業効率やストレスへの影響は少なかった.先行研究と比較すると,心臓音以外でリラックスできる音楽でもストレスが少なく作業が行えるということが考えられる.作業療法士として適切な環境設定を行うことは重要であり,対象者が作業を行いやすい音的環境を今後も研究,分析していく必要がある.

文献

1)河合淳子,松井琴世・他:聴覚刺激による生体反応のポリグラフ的研究「生体音」を中心として.臨床教育心理学研究,30(1),2004,53-64.
2)合掌顕,五十川沙織:休憩時の音楽聴取がストレス緩和と作業に与える影響について.人間・環境学会第20回大会発表論文要旨,6(31),2013,6.

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