卒業研究発表

作業遂行時の作業指示者による能動的関わりが, 対象者の心理及び作業遂行度・満足度に及ぼす影響

2017年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

 作業療法では,日常生活のあらゆる活動である作業遂行にアプローチする.Mary Law¹⁾は,「人-環境-作業モデル」を示し,作業遂行は人と環境と作業の相互交流の結果であると述べている.作業療法士が対象者と関わる時,作業療法士は環境のひとつといえ,作業療法士の関わり方が対象者の作業遂行に影響すると考えた.それは先行研究²⁾より,能動的な関わりにおいて顕著であり,作業遂行が最適な状態では,作業遂行度・作業満足度が高くなると考えた.
 そこで,初対面の相手に対し作業を提供する場面で,作業指示者による能動的関わりが,対象者の心理及び作業遂行度・満足度に及ぼす影響を明らかにし,その差異を検証することにより,適切な関わり方を知る一助になると考えた.

対象および方法

 対象者は,大阪医療福祉専門学校に在籍する学生で,検者と関わりのない37名.方法は,無作為抽出によりA群(受動的関わり,以下A群)18名,B群(能動的関わり,以下B群)19名の2群分類とし,共通の作業説明の動画を視聴後,毛糸のポンポン作りを実施した(ただしA群・B群の検者はすべて同一人物).A群の受動的関わりとは,作業を全体的に見守り,工程に関する最小限の発言を行う関わりとする.B群の能動的関わりとは,相手の反応に合わせて視線・表情を変化させ,頷き・相槌を行い,工程外でも賞賛・奨励等の自主的な声掛けを行う関わりとする.
 倫理的配慮として,口頭と文書で説明を行い,同意と同意撤回の自由についての確認を行った.
 質問紙は作業前後にCOPMの遂行度・満足度,POMS-VASにより気分の評価を行った.また作業後のみ遂行度・満足度・検者の態度についての自由記述アンケートを実施した.検定は,遂行度・満足度は,Mann-Whitney U検定,POMS-VASはt検定を採用した.

結果

 実験の結果,遂行度・満足度の作業前後の変化量は,共に向上している事例がA群6/18例(33%)に対し,B群12/19例(63%)で,B群の方が多かった.また其々の変化量について,A群では有意差がみられなかったが,B群では遂行度・満足度の点数が作業後に有意に上昇した(p<0.05).また気分では,「活気」がB群で作業後に有意に上昇した(p<0.01).
 アンケートから得られた検者に対する意見では,B群で,検者の支援によって作業が[スムーズ],[楽しい],[安心してできる],という意見や,検者が[わかりやすい],[丁寧],[気づきがある],[優しい],[正のフィードバックをくれる]というポジティブな意見が39/42件(93%)あった.一方A群でもポジティブな意見が22/30件(73%)あるものの,[緊張する],[やりづらい]といったネガティブな意見が散見された.

考察

 結果より,検者が能動的に関わる方が対象者の作業遂行度・満足度を向上することが示唆された.要因として,対象者に合わせた反応を検者が返すことで,対象者が〈受け入れられた感〉を得て,作業しやすい雰囲気を感じたと考える.それにより作業に対する注意が向いたこと,また検者による積極的な気付きや対象者自ら質問しやすかったことから,〈作業理解が促進〉したと考える.さらに,作業中の肯定的声掛けにより,〈自己効力感が向上〉したと考える.そのような対象者と検者のやりとりから,作業を通して,〈場の共有による楽しさ〉が生まれたと考える.これらの相互作用によって,作業意欲が向上し,作業自体が楽しいと感じられ,その結果,対象者の活気が向上し,作業遂行度・満足度が向上したと考えられる.

まとめ

 作業を提供する場面で,対象者に対し,作業に向き合いやすい雰囲気づくりや対象者に合わせた反応や声掛けを能動的に行うことで,人・環境・作業の関係性は変化し,対象者にとってよりよい作業遂行の実現に繋がると考える.

文献

1)Townsend E, Polatajko H(著),吉川ひろみ,吉野英子(監訳):続・作業療法の視点―作業を通しての健康と公正.大学教育出版,岡山,2011,51-56.
2)武捨英里子,福田幸男:リハビリテーション実施時に生じる対象者との相互作用.横浜国立大学教育人間科学部紀要I.教育科学 9,2007,139-153.

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