卒業研究発表

路面と点字ブロックとの触覚差の違いが白杖歩行の認識に与える影響

2017年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

 日本盲人会連合の調査によれば,駅ホームから転落したことがある視覚障害者の割合が36.5%,ホームから転落しそうになったことがある視覚障害者の割合が59.9%いる1).ホームへの乗降扉や柵の設置など抜本的な対策の必要性は高いが,本格的導入は進んでおらず,点字ブロックの誘導標識に頼らざるを得ないのが現状である2).
 今回,ICF分類の環境因子に着目し,心身機能面で視機能の回復が予後的に難しく,触覚と聴覚を頼りに環境を認知している全盲者を対象に,活動制限を軽減させ社会参加を促すことを目的に研究を行った.

対象

 協力を得られた盲学校の生徒・先生計8名(全盲者7名・弱視者1名,性別:男性7名・女性1名,年代:10代1名,20代2名,30代2名,40代3名).

方法

 耳栓をした状態で,被検者に白杖を左右方向へ地面に沿わしながら歩行してもらう.被検者に路面から点状ブロック・路面から線状ブロック・線状ブロックから点状ブロックの各移行部で,白杖からの刺激に変化があった時に立ち止まるよう指示し,立ち止まった地点で検者が「誘導ブロックの有無・誘導ブロックの種類の識別(点状/線状)・路面との境界の分かりやすさ」を聞く.ラバーシート(表面が滑らか)有り無しの計2回実施し,各項目について比較する.
 また、路面との境界の分かりやすさに関しては「1.非常にわかりやすい」~「5.非常に紛らわしい」の5段階の尺度で聴取した.本研究は、卒業研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:大医福 第17-教-6号).

結果

 路面から点状ブロック移行部について、境界の分かりやすさは平均3.5から2.5に変化し,有意差がある傾向(p=0.068)にあった.点状形状を認識できた人数は3/8人から5/8人に増えたが、有意差はなかった.路面から線状ブロック移行部は,境界の分かりやすさは平均2.62から2.12に変化したが,有意差はなかった.線状形状を認識できた人数は,4/8人から8/8人に増え,有意差がある傾向(p=0.068)にあった.線状ブロックから点状ブロック移行部は,境界のわかりやすさは平均5から4.87に変化し,有意差はなかった.点状形状を認識できた人数は0/8人で変化は無かった.

考察

 路面から線状ブロック移行部は,ラバーシートを使用し触覚差を大きくすることで認識率が向上することが立証された.しかし,線状ブロックから点状ブロック移行部でラバーシートを使用しても形状を識別できる人はいなかった.先行研究の結果から,点の間隔が狭く点の直径が広い方が認識率は向上することが分かっており,移行部の点状形状・幅の変更を行うのがよいと考える.
 また,線状ブロックから点状ブロックへの移行部位に点状ブロックを2枚敷くと,足底でブロックの凹凸を感知することができ形状の変化に気付きやすいのではないかと考える.

まとめ

 本研究結果から,点字ブロック周辺環境の変更(触覚差の明瞭化)だけでは白杖歩行の安全が保てないことが分かった.視覚障害者の活動制限を減少させるには,周囲の人の声掛け・手引き等の人的環境支援も必要と考える.本抄録を様々な人に読んで頂き,声掛け・手引きを行う一助になればと思う.
   また,自治体間で点字ブロック敷設基準が異なるが,敷設基準を考える上で役立てばと考える.

文献

1)水野映子:視覚障害者等のホームでの事故を防ぐために.LifeDesignREPORT.2012,32-34.
2)齋藤早希子,大西一嘉:視覚障害者の視点からみた駅ホームの整備課題に関する研究.日本建築学会近畿支部研究報告集(46).2006,141-144.

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