卒業研究発表

モデリングにより要求言語表出が改善した症例

2017年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

はじめに

以下の症例について,ことばの相談室実習において7回にわたり評価・訓練をする機会を得たので報告する.

症例紹介

 氏名:A様 性別:女 年齢:7歳
医学的診断名:自閉症スペクトラムの疑い
障害の程度:療育手帳B1(中度) 家族:父,母,妹
主訴:小学校や療育施設で言葉での要求ができない.
教育歴:支援学校在籍中,療育施設通所

初期評価

 社会性については,対大人での協調遊びが可能である.認知については象徴遊びが可能であり,また4か月間の長期記憶が保たれている.言語理解については口頭指示のみの3語文理解は可能であり,赤・青・黄の色や6までの数字も可能である.言語表出については,指さし・単語レベルでの応答で,要求は「~して」と2語文での表出が確認できた(「抱っこして」「おんぶして」).また,クレーン動作での要求が見られる.

訓練計画

 長期目標として「言葉で自発的に要求できるようになる」,それに至る為に①「『だっこして』『おんぶして』以外の要求言語を自発的に表出する」②「言葉での自発的な要求を増やす」の2段階の短期目標を設定した.目標達成のために,いくつかの要求場面を設定し場面に応じた要求を言語表出できるようになることを目的とした治療計画を立案した.具体的な手段としては,下記①②を繰り返し行う事とした.①本児の好きな遊びを通して,要求言語のモデルを示し模倣させる.②模倣できれば要求に応じ,言語表出すれば要求が叶えられるという結果のフィードバックを行う.

訓練経過・結果

 目標達成のために,電話での会話の中でA様を食事に誘い,A様が指示した食べ物を一緒に食べる真似をするという「電話遊び・ままごと遊び」を行った.第2回目の訓練時にSTsのかばんや手からままごと道具を取ろうとした(自己解決)ので制止し「ちょうだい.」と発語モデルを示すと模倣する事が出来た.第3回目の訓練時には「ハンバーグちょうだい.」と2語文の発語モデルを模倣できた.第4回目の訓練時には「ケーキ.」「ちょうだい.」等,単語レベルで自発的に要求する場面が見られ,言語要求なしに自己解決しようとする場面が見られなくなった.第5回目の訓練からは,保護者の要望により「ちょうだい.」から「ください.」に要求モデルを変更した.模倣を繰り返すことで「ケーキください.」と自発的に1度言うことができた.第6回目の訓練時には「ケーキ.」と単語レベルで自発的に要求した後,「ケーキ,く?」とヒントを示すと「ケーキください.」と表出することができた.第7回目には「ケーキください.」と自発的に2度言うことができた.「ケーキ」と単語レベルで自発的に要求した後,「ケーキ?」と聞き返すと「ケーキちょうだい.」と要求した.

考察

 以前の訓練経過よりA様が物や関わりを要求しSTsが応えるという行動連鎖が確立している遊びとして「電話遊び・ままごと遊び」を抽出し、要求場面設定として利用した.この様に日常生活の中で生起する言語の使用機会を利用する指導法を機会利用型といい,出口・山本(1985)によって成果が示されている方法である1).その中で,STsが先に渡しているおもちゃをA様の言語要求を受けてから渡す様に変更した.その結果,設定場面においては訓練当初に見られた自己解決動作やクレーン動作が見られなくなり,言語で要求する場面が見られるようになった.この結果は,対象児の行動連鎖が確立した活動の中に要求言語行動の指導機会を設定した結果,自発的な要求言語行動が生起する様になったとする小林ら(2013)の知見2)同様に今回の場面設定・モデル提示が有効に働いたと言える.

文献

1)「機会利用型指導法とその汎用性の拡大-機能的言語の教授法に関する考察」出口光・山本淳一 教育心理学研究,33,350-360,1985
2)「特別支援学校における自閉症児に対する要求言語行動の指導機会に関する検討-行動連鎖が確立した活動における教師の支援の見直しから」 小林久範・平澤紀子・他 特殊教育学研究,50(5),429-439,2013

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