卒業研究発表

日本におけるこどもホスピスの現状と今後

― アジア初の医療型こどもホスピス・淀川キリスト教病院を事例に ―

2017年度 【診療情報管理士学科】 口述演題

背景

 ホスピスの起源は,1967年,イギリスのロンドン郊外で,シスリー・ソンダース博士(医師)が「聖クリストファー・ホスピス」を開設した.この施設は,チーム医療をおこなっており主にがんの末期患者の心身全体の苦痛ケアをおこなっていた.1982年にイギリスのイースト・オックスフォードで世界初のこどもホスピス「ヘレンハウス」が誕生し,2004年に同じ地域に16歳以上の青年を対象とした「ダグラスハウス」が開設された.
 一方アジアでは,2012年11月初めてこどもホスピスとして,大阪・淀川キリスト教病院内に「ホスピス・こどもホスピス病院」が開設された.特徴として,成人を対象とする成人ホスピスとこどもホスピスが同じ施設内にあり,世界的にも珍しい事例となった.
 そこで本研究では,日本とイギリスのこどもホスピスの現状を比較し,その違いを明らかにすることにより今後の課題を検討することを目的とした.

本論

1.こどもホスピスの定義

 「こどもホスピス」とは小児がん,脳性麻痺などの難病や障がいを抱えたこどもの終末期の痛みを和らげるだけでなく,看護に疲れた家族の休息のためにこどもを一時的に預かる場などを提供する福祉施設である.また患児だけでなく,親,兄弟など家族全員の支援もする.そして,医療・福祉・教育などに携わる専門家がボランティアとして協力し,大切な時間をともに過ごしていく場といえる.

2.イギリスにおけるこどもホスピス

 イギリスのこどもホスピスは,日本では病院に隣接しているのに対し,病院とは離れたところに独立した施設が存在している.それらは,慈善団体により運営されており,利用は原則無料である.
 最大の特徴は,常勤医師がおらず,近隣の家庭医達がグループ嘱託医として医療全般の責任を負い,毎日医師が2~4時間程度の診療を行っていることである.現在イギリスにおいて,こどもホスピスは52箇所存在している.

3.日本におけるこどもホスピス

 淀川キリスト教病院は,シスター・フランシス・ドミニカが2009年に大阪市中央公会堂で講演した際,同院を訪ね,『ぜひ、日本にこどもホスピスを創ってほしい』と懇願し,その熱意に動かされ,2012年11月に日本初のこどもホスピスとして開設された.そして,淀川キリスト教病院におけるこどもホスピスは,難病のこどもに治療を受けつつ学びや遊びを楽しんでもらい,費用は医療費のみである.また初回の場合,看護師がこどもの症状や生活環境について2時間以上ヒアリングを行う.
 最大の特徴は,医療型こどもホスピスなら症状に異変があったらすぐに受診ができることである.現在,日本のホスピスは378箇所,こどもホスピスは大阪3箇所,東京都1箇所存在している.

考察

 本研究では,日本とイギリスのこどもホスピスの違いを明らかにすることを目的とした.イギリスのこどもホスピスは施設数52箇所と多く,利用は原則無料である.イギリスは,常勤医師がいないため医師の力量によってホスピスのケアレベルに差があるので,小児緩和ケアを学ぶための大学院コースやセミナーなどが活用されている.近年では,小児緩和ケア専門医が関与するこどもホスピスも増えてきており,新たなケアモデルを提供し始めている.
 それに対して日本のこどもホスピスの施設数は4箇所と少なく,それらは東京都と大阪府に集中しているため他県からも通いやすい.しかし,医療費が積み重なり交通費もかかるため,負担が大きくなるリスクが考えられる.利点として,医療型こどもホスピスならこどもの症状に異変があったら直ちに受診が可能なことである.

まとめ

 本研究では,日本とイギリスのこどもホスピスの現状を比較し,その違いを明らかにすることを目的とした.その結果,イギリスのこどもホスピスは,慈善団体により運営されているため利用は原則無料であるが常勤医師がいないため医師の力量によってホスピスのケアレベルに差があった.一方,日本のこどもホスピスは,すぐに受診ができるが施設数が少なく医療費が積重なり交通費もかかるため負担が大きくなるリスクが考えられた.以上のことから,こどもホスピスの認知度を上げることが今後の課題であろうと思われた.

文献

1) 鍋谷まこと,藤井美和・他:輝く子どものいのち―こどもホスピス・癒しと希望.いのちのことば社,2015
2) 多田羅竜平:英国・子どものホスピスの現状.週刊医学界新聞.2778,2008

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