卒業研究発表

THAを施行した症例に対する骨盤・腰椎の評価と治療

2017年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

 人工股関節全置換術(以下THA)を施行後,デュシャンヌ歩行の改善に難渋した症例を担当した.中殿筋の筋力増強を行ったが改善されず,骨盤を中間位に調整したところ,デュシャンヌ歩行は軽減し,歩行距離の増大につながった.本症例において,腰椎,骨盤に対する評価を再検討したためここに報告する.

症例紹介

 70代男性.病前ADLは自立しており,1年前に左股関節痛が出現し,その頃からT-cane歩行であった.今回,大腿骨頭壊死と診断され,痛みの増悪に伴い左THA施行に至った.独歩を獲得したが,デュシャンヌ歩行が問題点として残った. Hopeは日課であった散歩と自転車への再乗車を獲得することである.

評価と治療

 術後1週目から10日間かけて,初期評価を行った.関節可動域測定,徒手筋力検査において,股関節伸展,外転の可動域制限と筋力低下を認めた。姿勢観察では,腰椎の前弯,骨盤の前傾を認めた.動作観察において,両側立脚中期でデュシャンヌ歩行が出現しており,左立脚中期でデュシャンヌ歩行の動揺は大きく出現していた.
 治療は主に中殿筋の筋力トレーニングを行ったが,デュシャンヌ歩行の減少は見られなかった.そのため,骨盤の前傾位に着目し,骨盤中間位を意識した骨盤後傾運動を行った.

結果

 デュシャンヌ歩行は,術直後と比較して術後3週で目視にて腰椎の前弯,骨盤の前傾は減少した.また,デュシャンヌ歩行の減少と歩行距離の増大を認めた.

考察

 今回,腰椎の前弯角や骨盤の前傾角度において,目視の評価であり、正確性に欠けていると感じていた.そのため,腰椎骨盤において評価の指標1)を発見したため,以下に記載する. 腰椎前弯角:第1腰椎椎体上面を通る直線と第1仙椎上縁を通る直線がなす角で,前弯を正値,後弯を負値とする.
 腰椎傾斜角:第1腰椎椎体の中心と大腿骨頭中心(両側大腿骨頭中心を結ぶ線分の中点を通る直線と鉛直線がなす角で,鉛直よりも前傾を正値,後傾を負値とする.
 仙骨角:仙骨上面(第1仙椎上部終板を通る直線)と水平線がなす角である.仙骨上縁が水平線線よりも前傾している場合(仙骨上縁前傾端が後傾よりも低位)を正値と定めた.
 Pelvic Angle:Jacksonの報告に準じ,大腿骨頭中心と第1仙椎上面後端を通る直線と鉛直線がなす角であり,鉛直線を0°とし,前傾向きを正値と定めた.
 寛骨傾斜角:上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)を通る直線と水平線がなす角と定義した.
 また,体幹について,西村ら2)によると骨盤底筋群である腹横筋のトレーニングを行うことで,体幹の側屈が減少すると言われており,これは股関節疾患でTHAを行った患者に優位な結果であった.トレーニング方法としては,股膝関節 60°屈曲位でのハーフカットストレッチポール上端座位にて頭尾側方向への 体幹伸展を 10 回促すことを行う.
 南角ら3)によると,股関節周囲筋の腸骨筋や梨状筋の筋萎縮は股関節の安定化に作用し,これらが欠如するとともに中殿筋を含めた外転筋の作用が低下してしまうと言われている.このことから,骨盤と骨頭の安定性が外転筋の筋発揮に関係すると考える.

まとめ

 本症例は左大腿骨頭壊死を呈しTHAを施行した症例である.中殿筋の筋力低下が大きな問題であると考え治療を行っていたが,腰椎や,骨盤周囲の下部体幹筋力の強化により,骨盤の安定性や体幹の側屈の代償を制動できる可能性があることが認められている.これを踏まえて今後は腰椎や骨盤に対する評価を行い、体幹に対する治療アプローチを検討していこうと考えている.

文献

1)鈴木貞興,筒井廣明:立位における腰椎,骨盤,下肢の矢状面上のアライメントパラメーター間の関係.昭和学士会誌.76(6),2016,698-705.
2)西村圭二,南部利明・他:下部体幹筋の収縮の有無が歩行時の体幹および骨盤動揺に与える影響.加速度・角速度センサを用いての検討.第51回日本理学療法学術大会抄録集.43.Suppl.2
3)池田幸司,藤本将司・他:立位での一側下肢への荷重が荷重側股関節外転筋群の筋電図積分値に与える影響.-体幹前傾に伴う股関節屈曲角度の変化による検討-関西理学.9,2009,83-88.

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