卒業研究発表

変形性股関節症に対してTHAを施行した症例

― 踵接地を意識したステップ訓練の有用性 ―

2017年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

 今回,左変形性股関節症を呈し,人工股関節全置換術(以下THA)を施行された患者を担当した.本症例の特徴として,初期評価時から左大腿外側部(以下TFL)に強く疼痛を訴えており,歩行では左立脚初期に股関節屈曲・外転位での接地がみられた.仮説として,この歩容が左TFLへの疼痛を増強させているのではないかと考えた.変形性股関節症の異常歩行の1つとして,疼痛回避のため立脚初期の踵接地が不十分となり全足底接地となることが多い. 加藤ら1)は,変形性股関節症患者の歩行訓練において,踵接地を意識させることにより中殿筋の高い筋活動を引き出すことができると報告している.本症例においても,踵接地を意識させたステップ訓練を促した結果,跛行に改善が見られ,左TFLの疼痛も軽減された.ここにその内容を報告する.症例には発表の趣旨を説明し,同意を得た.

症例紹介

 70代後半の女性.約6年前から左股関節に違和感を感じ始め,他院受診にて保存療法を行うも改善がみられず.徐々に長距離歩行が困難となり,手術目的で当院受診.本年6月に手術施行となる.リハビリテーションは,手術翌日から開始した.

評価と治療

 歩行は補助具無しの監視レベルであり,左立脚初期に左股関節屈曲・外転位での接地,左立脚中期では体幹の左側屈・遊脚側骨盤の下制が見られた.疼痛評価は左TFL部にVisual Analog Scale(以下VAS)にて7/10の疼痛を認めた.関節可動域測定(以下ROM-T)では左股関節内転5°,徒手筋力検査(以下MMT)では左外転筋群3,Oberテスト・Elyテストは両側とも陽性であった.治療として左股関節可動域拡大を目指し,左腸腰筋・左TFLに対してリラクセーションを実施した.筋力トレーニングとして左股関節外転筋群の等尺性収縮および遠心生収縮を促した後に,歩行の前段階としてステップ訓練を実施した.ステップ訓練では左立脚初期の踵接地の意識を促すため,口頭指示および介助を行った.

結果

 左股関節内転可動域は10°,左外転筋群は4,左TFL部の疼痛はVASで2/10と軽減した.Oberテスト・Elyテストにおいては陽性だが,軽減がみられた.歩行では左立脚初期での左股関節屈曲・外転位での接地は消失,左立脚中期での体幹左側屈・遊脚側骨盤下制においても軽減が認められた.

考察

 井原ら2)は,二足歩行において足部は唯一直接地面に接する部分であり,ここで情報が下肢の機能的運動連鎖の引き金作用として重要であると述べている.また,加藤ら1)は,踵接地を意識させた歩行訓練は運動単位の活動状態を変化させ,中殿筋のtypeⅡ線維を対象とする選択的トレーニングとして有効であると述べている.
 本症例においても,疼痛を回避するために左立脚初期から股関節屈曲・外転位での接地となっていた.治療において左立脚初期の踵接地を意識させたステップ訓練を促すことにより,後足部の回内・回外運動を引き出し,足部-下腿-大腿の運動連鎖が正常に機能し,中殿筋の動員が増加した.それにより左TFLの収縮時痛が改善したと考えられる.この結果から,踵接地を意識させたステップ訓練は股関節外転筋の量的及び質的なトレーニングに有効な手段となり得る.問題点としてあげられた筋力低下に対する理学療法では,それぞれの単一方向の筋活動だけでなく複合的な筋活動を促すことや,筋力の向上とともに筋収縮様式の改善についても考慮しアプローチすることの必要性について示唆された.

文献

1)加藤浩:術後股関節疾患患者に対する踵接地を意識させた歩行訓練が股関節外転筋活動に及ぼす影響.理学療法学.27(4),2012,479-483.
2)井原秀俊・他:従来の歌詞リハビリテーションの反省.関節トレーニング,1990,15-16.
3)江戸優裕,山本澄子:踵骨-下腿の運動連鎖の動態特性.理学療法学.27(6),2012,661-664.

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