卒業研究発表

右TKAを施行後,左立脚期に右側へ骨盤の落ち込みがみられる症例

― 膝OAが片脚立位時の骨盤落ち込みに与える影響 ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

 今回、関節リウマチ性の右外反型変形性膝関節症(以下,膝OA)を呈され,右人工膝関節全置換術(以下,TKA)を施行された症例を担当した.本症例は左立脚期に右側への骨盤の落ち込みが著明にみられていた.千葉1)によると,片脚立位課題での骨盤傾斜角度が,歩行中の骨盤傾斜角度と関連すると報告している.本症例も左片脚立位を行ったところ同様に右側への骨盤の落ち込みがみられた.対側への骨盤の落ち込みは主に中殿筋を中心とした股関節外転筋の筋力低下により生じるとされているため,中殿筋の活動を補助して左片脚立位を行ったが,骨盤の落ち込みは同様にみられた.そのため中殿筋の筋力低下以外の原因が示唆されたため,その原因を考察する.

症例紹介

 60代女性.20年以上前から関節リウマチを罹患している.約10年前に左TKAを施行し,今回,外反型右膝OAによりTKAを施行し,14日が経過している.股関節の関節可動域は左右とも内転20°,外転40°である.徒手筋力テストでは左右とも中殿筋3レベルである.術前の下肢長は転子果長が0.5cm,棘果長は1cm左側が短い状態であり,術後に左右差は消失していた.
 左片脚立位では右側の骨盤の落ち込みがみられており,左手に重りを持たせた状態と,右上肢で壁面を支持した状態で左片脚立位を行った際にも右側の骨盤の落ち込みがみられた.

考察

 パウエルズの理論では,片脚立位時に骨盤を水平に保持するためには,中殿筋は体重の約3倍の筋力が必要としており2),中殿筋の筋力低下が生じていると骨盤の落ち込みが生じる.立脚側の上肢で重錘を把持したり,遊脚側の上肢で支持したりすることで中殿筋が必要な筋力は減少するので,筋力低下が生じている場合でも中殿筋の筋力を補助し,骨盤を水平保持することができる.しかし,本症例では骨盤の水平保持が困難であった.そのため,片脚立位時の骨盤の落ち込みの原因は,中殿筋の筋力低下以外の原因が示唆される.
 本症例の立位アライメントは,右膝の外反変形により左右下肢の脚長差が生じ,骨盤が右下方に傾斜し,左股関節は内転位となっていた.また,左下肢優位の荷重となっていた.そのため,数年間のマルアライメントにより,ボディスキーマ(身体図式)の歪みや中殿筋の筋力低下,中殿筋の活動機能の低下が生じたことが考えられる.ボディスキーマ3)は,末梢からの感覚フィードバックと予測されたフィードバックを比較し,それらが統合されることで形成される.長期にわたり誤った感覚が入力されることで,ボディスキーマの歪みが生じたと考えられる.中殿筋は対側の骨盤が落ち込むことにより伸張位となり筋出力は低下する4).また,長期間伸張位となることで中殿筋は筋力低下が生じる5).これらにより,立脚期や片脚立位時に骨盤を水平に保持する中殿筋の機能が衰退していると考える.

まとめ

 片脚立位時に対側の骨盤が落ち込む原因として,股関節外転筋力低下以外に,マルアライメントやボディスキーマの歪み,中殿筋の筋活動の低下の影響が考えられた.歩行時の立脚期に対側の骨盤の落ち込みがみられる場合,中殿筋の筋力低下だけでなく,病歴や生活様式,アライメントの評価も必要であると考える.

文献

1)千葉健:歩行中の膝関節負荷と片脚立位移行動作における生体力学的指標との関連性:変形性膝関節症患者の評価・治療への応用の観点から.北海道大学.2017.
2)石川朗:15レクチャーシリーズ 理学療法テキスト 運動器障害理学療法Ⅰ.中山書店,東京,2011,78-89.
3)舟波真一:運動の成り立ちとは何か―理学療法・作業療法のためのBiNI Approach.文光堂,東京,2014.
4)西美咲:前額面における骨盤傾斜角度が股関節外転筋力に及ぼす影響.理学療法学 26(4),2011,475-478.
5)猪股高志:理学療法のための筋の基礎知識-種々の条件による筋の変化および筋萎縮とその対応について-.埼玉理学療法 11,2004,2-11.

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