卒業研究発表

肩関節可動域改善により入浴動作自立に至った一症例

― 洗髪動作に着目して ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

 今回,転倒により左上腕骨近位端骨折を受傷した症例を経験した.洗髪動作に介助を要し入浴動作が困難であったため,その要因に肩関節の可動域が関連すると考え,治療を実施したところ洗髪動作が改善され入浴動作が自立にまで至った.洗髪動作と肩関節可動域に着目し,考察したことを報告する.

症例紹介

 60代女性.病院内で転倒され左上腕骨近位端骨折を受傷した.術後のADLでは洗髪が困難となり,入浴動作に介助が必要であった.独居であることから自宅復帰に向けて入浴動作の自立を目指した.

評価と治療

 初期における日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下,JOA score)は54.5点(挙上60°,外旋20°),単純X線により左上腕骨頭頸体角(以下,NSA)は120°で内反転位が見られた.肩関節,肘関節におけるROM-Tを表1に記す.表1より左肩関節に可動域制限を認めた.肩関節挙上時に左上腕外側上部に疼痛を訴え,NRSは8点であり,また触診より,左肩甲骨周囲筋群と腱板(肩甲下筋,小円筋,棘下筋),小胸筋,僧帽筋上部線維,大円筋,広背筋に過緊張を認めた.
    アプローチとしては過緊張になった筋へのリラクセーション,ストレッチングを実施した.

結果

 最終評価ではJOA score62点(挙上85°,外旋25°),肩関節と肩甲上腕リズムにおけるROM-Tは表1の通り改善を認めた.また,疼痛はNRS1点,筋緊張は軽減し改善を認めた.また,可動域の改善に伴い洗髪動作は可能となり入浴動作が自立した.

考察

 本症例は洗髪動作が困難となる原因は肩関節可動域制限であり,特に屈曲と外旋について注目した.鷲野ら1)によると,洗髪動作に必要な肩関節可動域は代償がある場合で屈曲85°,外旋20°という報告がある.また,吉崎ら2)によれば肩関節屈曲の際,上腕の外旋運動を伴うと報告されている.さらに,肩関節外旋運動制限のために挙上が制限されると述べられている.
 本症例は,初期に洗髪動作に介助が必要であった要因に左肩関節の屈曲,外旋可動域制限によりJOA scoreにて後頭部まで左手が届くことが困難であったこと,鷲野ら1)の代償を用いた場合の洗髪動作に必要な可動域に満たなかったことが考えられる.最終時,左肩関節屈曲,外旋可動域の改善が認められ,後頭部まで左手が届き,鷲野らの代償動作を用いた場合での洗髪動作に必要な可動域を満たすことができたため,洗髪動作が改善でき,入浴動作が自立にまで至ったと考えられる.

文献

1) 鷲野紗季,et al.:日常生活における肩関節の必要可動域.中部整災誌.60,2017,569-570.
2) 吉崎邦夫,et al.:両上肢の前挙・肩甲骨面挙上・外転における上腕外旋角度の違いはあるか.第47回日本理学療法学術大会抄録集.39,Suppl.2,2012,Aa0155.

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