卒業研究発表

脳幹梗塞により四肢麻痺を呈し寝返り動作が困難となった症例

― 獲得した動作の定着について ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

 今回,脳幹梗塞により四肢麻痺を呈し,長期臥床に伴う廃用症候群を認めた症例を担当した.寝返り動作獲得に向けて治療アプローチを行った結果,一時的な改善が見られた.しかし,定着には至らなかったため,その理由について運動学習を踏まえ考察したのでここに報告する.

症例紹介

 40代男性.全てのADL動作に介助を要する状態である.離床の機会が少なく,一日の大半をベッド上で過ごされている.そのためベッド上での動きを拡充させる必要があると考えた.また痰量が非常に多く,気切部からの吸引を頻回に要した.排痰に適した肢位になれること,安楽に過ごすことを長期目標として掲げた.

理学療法評価と治療

 右半身の随意性は乏しいが,左半身は上下肢ともにBrunnstrom stage Ⅲレベルであり,表在,深部感覚においては異常を認めなかった.
 対側のベッド柵を把持し身体を引き寄せることで寝返りを行っていたが,寝返りでの1相~2相間における側方リーチ動作が不足しており,柵に手が届かず介助を要した.治療ではこの側方リーチ動作を中心にアプローチを行った.

結果

 1相~2相間における側方リーチ動作の向上によりベッド柵へ手が届くようになり,自己にて寝返り動作が可能となった.しかし,最終評価以降,介入初期に近い状態に戻ってしまい,再度介助を要する状態となった.

考察

 運動学習の段階は,課題の理解を促し「何をするか」に焦点を当てた認知段階,練習によって運動プログラムを調整し「どうやって行うか」を理解する連合段階,運動への注意を減少させ動作遂行の自動化が目的となる自動化段階に分けられる.
「付加的フィードバックは学習に有用だが,過剰な付与による依存は,固有感覚などの内在フィードバック利用による誤差検出の処理を疎かにさせ,結果的に学習を阻害する」という報告¹)があり,KRやKPなどの付加的なフィードバックは,その頻度を減らすと学習効果が高くなるとされている.したがって段階の進行とともにフィードバックを徐々に減らし,連合段階以降においては患者自身の固有感覚を促す方向に移行することが望ましいと言える(図1).
 実際に行った治療では,今回着目した寝返りの1相~2相間での側方リーチ動作の反復,ハンドリングを主体とした感覚入力を中心に実施し,廃用筋の賦活,神経筋再教育を主な目的としていた.しかし,運動学習の段階を考慮するとその感覚入力は徐々に減らしていくべきことであり,練習方法も段階に沿った内容を提案する必要があった.また,動作の定着を目指す上では居室のベッドだけでなく,柵の存在しないプラットホームなどの異なる環境での実施が習熟には必要であったと考える.

まとめ

 運動学習には段階に沿ったフィードバック方法の検討,治療プログラムの考案が動作定着において重要であることが分かった.運動学習のメカニズム,学習段階に応じた適切なフィードバック方法,練習内容について理解を深め実施する必要があると考える.

文献

1)谷浩明:運動学習理論の臨床応用.理学療法ジャーナル.24,2007,299-304.

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