人工膝関節全置換術後に膝蓋骨外側脱臼を呈した症例
2015年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題
背景
今回,変形性膝関節症により左人工膝関節全置換術(左TKA)施行後,膝蓋骨外側脱臼を生じた症例を担当した.膝蓋骨脱臼を生じた原因について,本症例の術前の病態や術後所見から検討し,TKA後における膝蓋骨脱臼リスクについて検討した.
症例紹介
本症例は,70歳代女性,左変形性膝関節症により左TKA施行(内側傍膝蓋アプロ―チ)した.6日後,左膝蓋骨外側脱臼が確認され,翌日,観血的脱臼整復術を施行した.
術前病態からの考察
まず,症例の術前病態について,画像所見より左FTA160°と外反膝であり,膝蓋骨は外側偏位を生じていた.TKA術後は,左FTA175°,膝蓋骨も正常の位置へ改善されている.左膝蓋骨の形状は,変形しており,静的安定性は低下していたことが考えられる.また,膝蓋骨の安定性は大腿四頭筋の働きが重要となる.通常,大腿四頭筋の作用線は上外側を向き,特に外側広筋の働きが大きい.それに対し拮抗して働く内側広筋斜頭線維(VMO)が働くことで筋バランスは均衡し,安定性を保たれている1).しかし,本症例は,過度の膝外反から脛骨は外旋していることから,大腿四頭筋の力線を示すQ角は増大し,膝蓋骨に外側へ引っ張る力は増大することが考えられる.また,外側広筋の緊張は増大することが考えられる.そのため,膝蓋骨外側不安定性は増大し,内側牽引力は低下していたことが考えられる.また,VMOは膝蓋骨外側偏位することで伸張され,長さ―張力曲線より内側広筋収縮不全を生じていることが考えられる.そのため,膝蓋骨の内側牽引力は低下していることが考えられる.
術後所見からの考察
次に,症例の術後所見について,本症例は手術による侵襲からVMOは切開されている.また,TKAでは伏在神経切離が頻発するとされている.伏在神経は,VMOを含むとされ,切開されたVMOは,収縮不全を生じていることが考えられる.そのため,外側広筋と内側広筋の筋バランスが不均等となり,膝蓋骨内側牽引力が低下していることが考えられる.
表面筋電図学的解析
今回,一般男性を被験者として(n=1),利き足における膝外反位と中間位での内側広筋の筋活動の違いについて検討した.BIODEXを用い,膝屈曲角度15°にて膝外反位(10°)と中間位での最大等尺性収縮を行い,同時に,内側広筋筋腹に電極を添付し,%最大筋力(%MVC)を測定した.
結果およびまとめ
筋電図の結果は,膝中間位に対し,外反位での内側広筋の筋活動は61.4%MVCと減少した.このことから,膝外反位での内側広筋の筋活動は低下することが考えられる.
以上のことから,まず,術前アライメントより膝外反,脛骨外旋は,外側広筋の緊張を増大させ,膝蓋骨を外側偏位させていたことが考えられる.また,同時に内側広筋斜頭線維(VMO)は伸張され,収縮不全を生じていることが示唆される.次に,手術による侵襲からVMOは切開されることや,伏在神経切離によるVMOの収縮不全が考えられる.これらのアライメントや手術による影響が,膝蓋骨内側牽引力を低下させ,TKA術後の膝蓋骨脱臼を助長させたのではないかと考える.
一般的に,変形性膝関節症によるTKA術後,膝伸展筋力増強は重要とされているが,膝蓋骨の適合性や,脛骨外旋,膝関節外反したアライメント異常に対して,留意した筋力増強を実施しなければ,脱臼のリスクが増大するかもしれないことが示唆される.
文献
1) Donald A. Neumann 著,嶋田智明訳:筋骨格系のキネシオロジー.医歯薬出版,東京,2012,593-598.