卒業研究発表

シルバーカー歩行にて歩行速度が向上した症例

― 術側足関節背屈可動域と歩幅の関係に着目して ―

2015年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

歩行速度はADL能力に関与するという研究が多く報告されており,在院日数の縮小が求められる医療情勢において術後早期の歩行速度向上は自宅復帰後のADL拡大に有利な可能性が考えられる.今回,右変形性膝関節症に対し人工膝関節全置換術(以下,TKA)を施行した症例を担当した.術後早期から術側において膝関節伸展時の足関節背屈可動域に著明な制限が見られ,健側の歩幅低下が見られた.術側の下腿三頭筋に対し治療を行った結果,足関節背屈可動域に改善が見られ,健側の歩幅が増大し,歩行速度の向上も得られたので報告する.

症例紹介

80歳代女性で,10年来の膝関節の痛みがあり,今回,疼痛緩和を希望してTKA施行となった。入院前は独居であり,ADLはほぼ自立していた.外出の機会は多くなかったが外出時はシルバーカーを使用して移動していた.術後1週からシルバーカーでの歩行訓練を開始し,術後5週で自宅退院に至った.

評価と治療

初期評価時の関節可動域検査(以下,ROM-T)は膝伸展時の背屈-5°,膝屈曲時の背屈10°であり,下腿三頭筋の筋力は徒手筋力検査(以下,MMT)で腓腹筋・ヒラメ筋共に2+であった.10m歩行テストはシルバーカーを使用し(タイム:15.6秒,ストライド長:71.4cm,歩行速度:38.5m/分)屋外歩行のカットオフ値を下回っていた.歩行時の術側足部は底屈位であり,立脚初期から常に前足部接地を呈し,踵接地,足底接地は消失していた.その為,術側の立脚時間が短縮され前方への推進力は低下し,健側の歩幅低下が見られた.そこで前方への推進力向上を目的に術側の背屈可動域に着目し,下腿三頭筋に対して治療を行った.①リラクセーション:腓腹筋の内側頭・外側頭に筋スパズムに対し徒手でマッサージ.②ストレッチ:腓腹筋の伸張性低下に対し持続的伸張,相反抑制,最大収縮後の弛緩作用.③関節モビライゼーション:距骨の後方滑り.④DYJOC:DYJOCボードを用いて荷重下での底背屈運動.⑤筋力増強運動:徒手抵抗で底屈運動,平行棒を把持しながらの底屈運動.それぞれ約3週間行った.

結果

ROM-Tは膝伸展時の背屈10°,膝屈曲時の背屈15°と改善が見られたが,下腿三頭筋はMMTで腓腹筋3,ヒラメ筋2+と大きな変化が見られなかった.10m歩行テストは(タイム:11.4秒,ストライド長:86.9cm,歩行速度:52.3m/分)屋外歩行のカットオフ値とほぼ同等となり.歩容においては立脚初期の踵接地,中期の足底接地が可能となった.

考察およびまとめ

歩行時の足部機能としてロッカーファンクションがあり,膝伸展時の足関節背屈可動域が立脚初期から中期で重要となる.本症例は膝伸展時の背屈可動域に制限があり立脚期全体を通して前足部接地となり前方への推進力が低下していた.背屈可動域が改善したことにより立脚初期の踵接地,中期の足底接地が可能となり前方への推進力を得ることができた.また,推進力を得るには下腿三頭筋の筋力が必要になるが,症例では筋力増強が見られなかった.このことからシルバーカー歩行においては強い筋力強化よりも背屈可動域の拡大が有効であると示唆された.

文献

1)宮原洋八・他:地域在住高齢者の自立と運動機能,日 常生活活動,社会的属性との関連.理学療法科学.25,2010,217-222.
2)宮脇和仁,巌見武裕・他:シルバーカーを用いた高齢者歩行の評価.ライフサポート.11,1999,86-91.
3)畠中泰彦・他:人口膝関節置換術後の歩行に関する運動学的考察.日本臨床バイオメカニクス学会誌.15,1994,307-309.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は