卒業研究発表

左視床出血にて右下肢感覚障害が残存したが歩容が改善した症例

― ミラーニューロンの関係性に着目して ―

2015年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,臨床実習において,左視床出血により右片麻痺、右下肢感覚障害を呈され,歩行での右立脚初期に足部の接地位置の不定がみられ,右後方への転倒が懸念された患者様を担当した.上記現象に着目して治療を行った結果,感覚障害が残存したが歩容が改善した.そこで,ミラーニューロンとの関係が考えられたためここに考察を踏まえ報告する.

症例紹介

40歳代女性,左視床出血と診断され,発症から2日後に定位的血腫除去術を施行された.意識レベルは改善され,術後経過は良好である.併存疾患にCobb角70°の側弯症があり,右下肢荷重優位である上に右片麻痺となった.

評価と治療

初期評価時の歩行で,右立脚初期で足底接地位置の不定が見られた.感覚検査では表在・深部感覚共に鈍麻が認められた.また,BRS-tでは右下肢Ⅳであった.Modified Ashworth scale(以下MAS)では右股関節外転2であり,荷重検査では右34kg,左21kgで右下肢荷重優位であった.歩行では,左下肢荷重時に努力性となり,右下肢の伸展パターンと,右股関節内転筋の連合反応による内転運動が伴うことと,右下肢足底接地位置の不定に対しては視覚による代償で右下肢のコントロールを行っていた. 右下肢に対しては感覚改善を促すために鏡によるフィードバックを行い,荷重訓練を行った.左下肢へは努力性の軽減を目的として荷重訓練を行った.

結果

BRS-tⅣ~Ⅴ,MASでは右股関節外転1で分離運動は向上し,荷重検査では左右均等となり左下肢荷重時の努力性は軽減した.よって,右下肢の足底接地位置の不定がみられた現象は同程度の課題難易度では視覚代償なしでも頻度が減少していた.しかし,感覚障害が改善されなかったが頻度が減少していた.本症例は,同室者の女性で,CVAの患者様の健常者レベルに近い歩行をよく観察する節があった.そこで,ミラーニューロンシステム(以下MNS)との関係性が考えられた.

考察

村田ら1)茂木ら2)塩原ら3)によると,ミラーニューロンは元々サルの脳のF5野,PF野で見つかった.ヒトの脳ではF5野は44野(ブローカ野),PF野は40野に相当するとされている.MNSは頭頂葉と腹側運動前野の視覚運動制御のネットワークの中で,頭頂葉のミラーニューロンが他者の動作だけでなく,自己の身体感覚の形成に関わっているのではないかと推測されている.動作の認識,模倣,コミュニケーション,共感,言語システムとの関わりを指摘され,大脳皮質の体部位局在的に配列を持つ.さらに,同種の同性で,自身と似た,または同じ習慣や特性のある他者の動きに共感を示しやすく模倣しやすいことが分かった.おそらく観察している行為(40野)を心の中で説明し,自身の内的な言語表象(ブローカ野)も行っていたことが考えられた. 本症例においても視覚から入力された情報が40野に,また,内的言語表象により入力された情報が44野に投射され,ミラーニューロンが賦活する.その後,頭頂連合野にて感覚は統合認識され,前頭前野に投射し遂行機能を統合した後,運動野へ投射後に運動の実行が行われていたことが考えられた.

まとめ

渕上ら4)によると,脳卒中片麻痺患者の下肢機能に対して他者の動作をビデオ撮影したものを患者様に見せ,ミラーニューロンを賦活させて動作改善に導くといった治療も行われてきている.これらの文献をもとに自身の知識を深め,取り入れていきたい.

文献

1)村田哲:ミラーニューロンの明らかにしたもの-運動制御から認知機能へ-.日本神経回路学会誌.12(12),2005,2-5,52-60.
2)茂木健一郎(監):ミラーニューロン.紀伊國屋書店,東京,2012,137-143.
3)塩原通緒訳:ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学.早川書房.東京,2015,21-84.
4)渕上健,松尾篤・他:慢性期脳卒中片麻痺患者の下肢機能に対する運動観察治療の効果.理学療法科学.30(2),2015,251-256.

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