卒業研究発表

骨盤前傾の改善により立ち上り動作能力向上につながった症例

― 座位前方リーチテストに着目して ―

2015年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

今回,転倒により左大腿骨転子部骨折,腰椎圧迫骨折を受傷された症例を担当する機会を得た.立ち上り動作獲得を目指し,体幹前傾相に着目し治療を行ったところ,立ち上り動作に改善がみられたので以下に報告する.

症例紹介

70歳代女性,診断名は左大腿骨転子部骨折,腰椎圧迫骨折である.現病歴は自宅台所で歯磨きをしようとして転倒された.Hopeは歩いて自宅で生活することである.既往歴に脳梗塞,くも膜下出血がある.

評価と治療

初期評価において,下肢のBrunnstrom recovery stage(以下,Brs)はⅡで左下肢の随意性は乏しい.筋緊張はAshworthスケール変法(以下,MAS)にて左下肢集団屈曲,伸展2,触診にて左大殿筋,左右内腹斜筋,左右多裂筋の筋緊張低下を認めた.関節可動域(以下,ROM)では左股関節屈曲95°で左大腿前面に疼痛を訴え,左股関節伸展-10°,左足関節背屈-20°であった.座位荷重量は右殿部に偏位しており,座位での前方機能的リーチテスト(以下,座位FRT)は14.3㎝であった.立ち上り動作観察では,開始姿勢で骨盤後傾位で体幹前傾相における股関節屈曲に伴う骨盤前傾は乏しく平行棒を引き込む代償がみられる.殿部離床は困難であり,介助を要する.治療では,殿部荷重の左右差是正を目的として座位荷重練習を実施した.立ち上り動作練習として左下肢荷重を促し,骨盤前傾練習を行った.立位保持練習では左右下肢への重心移動練習を行った.また,体幹コルセット装着による筋萎縮,伸張性低下を予防するため腰部リラクセーションを実施した.

結果

最終評価では,MASで左下肢集団屈曲,伸展1+,左大殿筋,左右内腹斜筋,左右多裂筋の筋緊張改善が認められた.Brsは変化ないものの,左下肢の随意性が改善された.ROMは左股関節屈曲100°,伸展-5°,左足関節背屈-15°に改善された.座位殿部荷重は是正され,座位FRTは20.4㎝であった.立ち上り動作は平行棒を引き込む代償が消失し,平行棒を支持して殿部離床が可能となった.

考察

立ち上り動作練習を実施し座位FRTが20.4㎝に改善された.座位FRTにおいて寺垣ら¹⁾によると,既存の体幹機能評価である視覚性立ち直り反応(以下,ORR)との間に関連性が認められたと述べており,本症例において座位FRTの変化から体幹機能が改善されたと考えられる.座位FRTにおける筋活動に関する先行研究は少なく,本症例の筋緊張検査で改善の認められた多裂筋,内腹斜筋,大殿筋について筋電図の計測を実施した.被験者は事前に同意の得られた健常男性である.座面の高さは被験者の股関節,膝関節屈曲90°になるよう設定し,動作の比較として,骨盤前傾した場合と骨盤後傾位から前傾しない場合を設定した.骨盤前傾した場合のリーチでは多裂筋に持続的な筋活動,内腹斜筋,大殿筋は体幹前傾運動時に筋活動を認めた.一方,骨盤後傾位でのリーチでは多裂筋,内腹斜筋ともに活動低下を認めた.内腹斜筋,多裂筋は身体に課される様々な動揺に反応して初期にいつも活動する腰椎の安定装置²⁾であり,骨盤前傾を促すことによって体幹機能が向上することが示唆された.

おわりに

今回の症例に対し,立ち上り動作練習を行うことによって体幹前傾運動が改善された.体幹機能評価としてORRとの相関がある座位FRTの数値が改善されたことから体幹機能が改善されたと考えられる.また骨盤前傾運動を促すことによって,多裂筋,内腹斜筋の筋活動が向上し体幹安定につながることが示唆された.立ち上り動作における筋活動について,今回分析した3筋以外についても今後筋電図測定を行い,研究の余地があると考える.

文献

1)寺垣康裕・他:脳血管障害患者における座位前方リーチテストの臨床的有用性の検討.理学療法学.23(1),2008,151-155.
2)Donald A.Newman著,嶋田智明訳:筋骨格系のキネシオロジー原著第2版.医歯薬出版.東京,2012,457-459.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は