卒業研究発表

がん登録の現状と課題

2016年度 【診療情報管理士学科】 口述演題

背景

 現在我が国では死因の第1位が悪性新生物(以下:がん)であり罹患数98万人,死亡数37万人(2015年)といわれ,他の疾患の死亡率は低下しているにも関わらず,がんの死亡率は増加の一途を辿っている.がんは治療が困難であり,その治療法には未だ決定打が無いという厳しい現状である.そのため罹患数を正確に把握し,精度の高いデーターベースを作成するために,2016年1月から病院に対して全国がん登録を義務化した.それにより,がんの進行度,生存率等,がんに関する様々な統計情報を得ることができるとされている.本研究ではがん登録について調査し,現場での実務担当者が抱える課題と展望について述べることを目的とした.

本論

がん登録とは,がんの診断,治療,経過などに関する情報を収集し,保管,整理,解析する仕組みのことである.毎年,がんの死亡数,罹患数,診断された人のその後の生存率といったがんの統計情報は,国や地域のがん対策を立案や評価に大変重要である. 日本では次の3つのがん登録が行われている.

1.全国がん登録(地域がん登録)

従来,都道府県がそれぞれの自治体内で診断されたがんのデータを収集した地域がん登録制度があったが,都道府県ごとのデータ収集では,居住する都道府県以外の医療機関で診断・治療を受けた患者や,患者が他県に転居した場合などデータが重複する可能性があり,正しい情報が把握できないことが指摘された.そこで,国で一括して管理する全国がん登録制度が開始された.全国がん登録では,居住地域に関わらずどこの医療機関で診断を受けても,がんと診断された患者のデータは都道府県に設置されたがん登録室を通じて収集され,国のデータベースで管理されるようになった.

2.院内がん登録

現在,がん医療の均てん化を目指して地域がん診療拠点病院の指定が全国的に進んでいる.全国どこでも同じレベルのがん医療サービスをうけることができることを目標とした事業である.治療を受けた全ての患者のがんについての情報を,診療科を問わず院内全体で集め,その医療機関のがん診療がどのように行われているかを明確にする調査である.この調査を複数の医療機関が同様の方法で行うことで,得られた情報を比較できるようになり,医療機関ごとの特徴や問題点が明らかになるものと期待されている.

3.臓器がん登録

大学と主要な医療施設が参加し,学会・研究会が中心となって臓器別に全国規模で実施されているがん登録である. ※本研究においては,言及しない.

現場での課題

地域の中核的な5つの病院に対し,がん登録業務に関して実務担当者にそれぞれ聞き取り調査を行った.その結果,共通して以下の問題点が挙がった.
がん登録業務は,特に担当者の資格を限定しておらず,医師事務作業補助者においてもがん登録業務遂行を診療報酬上妨げていない.しかし,がん登録の業務内容から,診療情報管理士の業務として位置づけられる傾向にあるが,従来より業務が多忙を極める診療情報管理士に,がん登録にまで時間を割くことはなかなか厳しい現状である.
また,施設基準の「診療管理体制加算1」の要件に「年間の退院患者2000名ごとに1名以上の専任の常勤診療情報管理者の配置」と定められており,これを満たす最低限の人員配置に留めている医療機関が多い.しかし,この定数にはがん登録業務が考慮されているとは考えにくく,人員補充に対しての医療機関上層部の理解も得難いところも,不採算部門である診療情報管理室の厳しい現実であった.

今後の展望

以上のことから,がん登録の課題としては,実務者の絶対数の確保が不十分であることが分かった.また,実務者の養成に関しても,国立がん研究センター等による実務者研修会が定期的に開かれているが,まだまだ充分であるとはいえない.
今後も国として積極的にがん登録実務者の養成を惜しまないことはもちろん,それぞれの医療機関でのがん登録業務の精緻化と実務者の存在意義を拡充すべく,研修修了者の域を超えた「がん登録士」の資格認証化が求められるのではないだろうか.

文献

1)三神一哉,三木恒治 日本におけるがん登録の現状と課  題京都医大誌 120(4) P211~217,2011
2)西本筧 診療情報から見た地域がん登録と院内がん登録 JACR Monograph No.11 P49
3)国立研究開発法人・国立がん研究センター (internet) : http://www.ncc.go.jp/jp/

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