卒業研究発表

反復唾液嚥下テストを用いた呼吸と嚥下機能の関係

2016年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景

言語聴覚士は臨床場面において,対象者に嚥下訓練をする機会が多い.その際,呼吸器疾患を持つ患者様も多く,また高齢者においても呼吸機能が低下している方が多くみられる.また,呼吸器疾患を持つ患者様は嚥下と呼吸のタイミングにズレが生じ,誤嚥性肺炎を生じる可能性がある.このことから呼吸機能と嚥下の関係を研究し,呼吸機能も評価することで患者様やその家族様に助言が行える事を目的として今回の研究を行った.

対象

対象者は本校,言語聴覚士学科学生20名,(男女10名ずつ).本研究の趣旨を説明し,同意を得られた者のみを対象とした.うち5名は実験の手続き上無効であった.椅子に着席後,右手示指にパルスオキシメーターを装着し,SpO2(動脈血血中酸素濃度)を計測する.次に鼻の下に鼻息鏡を置き,反復唾液嚥下テストを座位にて行う.その後マスクを1枚着用し,6階から階段で1階まで走って下り,6階まで走って上る.そして、被験者が着席後15秒以内に反復唾液嚥下テストを再び行う.最後に実験終了後,被験者にアンケート調査を行う.

結果

本研究では,嚥下後に吸息を呈したものを危険呼吸相とした.
運動前に比べ運動後にSpO2が減少した67%(10人)は有意に息苦しさ・飲み込みにくさを訴えており,SpO2の減少と嚥下回数の減少には関係があり,さらに飲み込みにくさを訴えた群のSpO2の変化をみたところ,運動後にSpO2が減少した人は72%であり,有意差が認められた.

考察

SpO2が減少すると,息苦しさを感じて嚥下回数が減少し,危険呼吸相が増加するために,誤嚥のリスクが高まるのではないかと予測したが,実験結果からSpO2と危険呼吸相の増加(誤嚥のしやすさ)には関連がないと考えられる.これは,嚥下は呼吸システムと深くかかわる協調運動であり,他の脳幹運動とも関連したニューロンネットワークとの統合機構により制御されているからであると考えられ,(1₎)それにより,呼吸苦であっても危険呼吸相が増えなかったことが推測されるため,呼吸器疾患を持つ人が誤嚥を起こす原因はSpO2減少による呼吸苦からの呼吸相の変化ではなかったことが示唆される.次に,SpO2の減少と嚥下回数の減少は,息苦しさ・飲み込みにくさに関係があると考えられ,嚥下動作時に起こる嚥下性無呼吸により,呼吸の努力感と充足感のアンバランスさを強く感じるためではないかと推測される.

まとめ

本実験では呼吸器疾患と危険呼吸相の関係はみられなかった.そのため,呼吸苦による嚥下関連筋群の働きなどについても調べる必要があると考える.

文献

1)藤島一郎・他:よくわかる嚥下障害 改定第3版、永井書店,平成24年,15.

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