卒業研究発表

聴覚障害者の補聴器装用における期待と現状の検討

― 言語聴覚士を目指す学生として何ができるか ―

2016年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景

補聴器は,一般的に難聴者が聴力を補うために用いる,音声を拡大増幅する装置として認知されていると考えられる.しかし,実際には静かな場所で1対1の会話を聞き取るのに適する装置であり騒音下での複数名での会話には適さないなど補聴器の機能には限界がある.本校の講義によってその事実を知り,補聴器に対して知識が不足していることを実感した.そのことから補聴器装用前の難聴者も同じように,あるいはそれ以上に補聴器に対し過度な期待をしているのではないかと推測し検証する.その結果からなぜこのような期待や不満が生まれるのか考察し,今後言語聴覚士として補聴器装用者に関わる場合,過度な期待や不満を持たせないために何ができるのかを考えていく.

対象

補聴器装用を検討している難聴者およびその家族を対象にした論文,聞き取り調査.

方法

補聴器メーカー1社への聞き取りおよび文献研究

仮説

補聴器装用前の難聴者および家族は補聴器に対し性能以上の期待を持っており,実際に装用した際に期待が裏切られている現状があるのではないか.

結果

研究の結果,装用前は「語音明瞭度の正常化」「S/N比の改善」「簡単にすぐに使える」「年金生活者でも購入できる値段」「インターホンなど小さな音でも聞こえる」「自然な音が聞こえる」「長持ちする」といった期待がある一方,装用後の不満として「明瞭度が変化しない」「不快な雑音がある」「操作が難しく使いこなせない」「高価」「装用しても変わらない」「聞こえる音が不自然」「電池の寿命が短い」が挙げられる.また補聴器メーカーからの聞き取りでは論文検索で得られた期待の他に「高価な補聴器ほど効果がある」「耳鳴りが治る」「早く装用しても遅く装用しても変わらない」「必要な時だけ装用すればよい」「耳鼻科にかからなくてもよい」「通販で購入したものでもよい」「片耳装用でもよい」「下取りができる」「プレゼントしても問題ない」「若者と同じように聞こえる」といった期待を補聴器装用前は持っていたものの装用後に期待が裏切られたケースがあったことが分かった.

考察

補聴器装用前の難聴者および家族は補聴器に対し性能以上の期待を持っていると考えられる.それは聴覚機能が知られていないことと補聴器の社会でのイメージが影響していると推察する.
「自然な音が聞こえる」といった装用前の期待や「聞こえる音が不自然」といった装用後の不満と実際の補聴器の効果との不一致については,補聴器の効果だけでなく聴覚の生理学的な特性が知られていないことから生じていると考える.
「耳鼻科にかからなくてもよい」といった装用前のイメージがあるのは耳鼻科に行かずともネット販売や眼鏡店で購入できるという利便性が関与しており,聴力検査およびフィッティングなどの本人に最適な補聴器を選ぶための手続きが知られていない可能性があり,その要因として補聴器販売店協会ならびに日本補聴器販売店協会の啓発不足や懇切丁寧でない販売店の存在が根底にあると考える。

まとめ

補聴器に対する期待と現状について聴覚機能の認知度の低さと補聴器の社会的イメージが影響しているという結論に至った.補聴器への期待は優れたイメージが関係していると推察したが今後,補聴器に対するマイナスイメージについても研究したいと考える.また,今回は補聴器メーカーおよび文献研究による一般的なイメージの抽出を行ったが,実際に補聴器装用者に話を聞きより現状を知ることで補聴器装用を考える方へ配布するリーフレットなどを作成し、補聴器についての正しい知識を広め,補聴器販売店のあり方を改善するために積極的に介入することが,言語聴覚士としての課題となると考える.

文献

1)真鍋敏毅:高齢者と補聴器.Audiology Japan 52,2009,97~105

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