卒業研究発表

情動における記憶の優位性

2016年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景

記憶は感情によって左右されると考えられ,様々な研究が行われてきた.言語聴覚士として,臨床場面において対象者とコミュニケーションを取る場面が多い.その際,対象者がリラックスできる環境で訓練を行うことが望ましいとされている.
これまでの研究では,参加者をマイルド,快,不快の感情に誘導し,その状態で記憶課題を行うものや,強い情動,感情を喚起させる材料を使い,その影響を調べるものなどがなされてきた.ここでは,快感情(笑い)に焦点を当てた研究を行い,それが記憶にどのような影響を与えるかについての一考察をここに報告する.

対象および方法

実験対象者:大阪医療福祉専門学校言語聴覚士学科
      1年生28名,2年生22名
実験期間:2016年5月26日・27日・28日
実験場所:403教室,902教室
実験方法:
1年生
①スクリーンに”Skype Laughter Chain”(YouTubeより)を写し,動画鑑賞を行う.
②鑑賞後,スクリーンに無意味語20語を無作為に一括提示.
③1分間の制限時間で覚えてもらう.
④提示後,すぐに回答用紙(無意味語40語)を配布し,再認形式で回答してもらう.
2年生
①スクリーンに無意味語20語を無作為に一括提示. (” Skype Laughter Chain”は鑑賞しない)
②1分間の制限時間で覚えてもらう.
③提示後,すぐに回答用紙(無意味語40語)を配布し,再認形式で回答してもらう.

結果

考察・まとめ

畑野(1)(2009)は,研究論文の中で「1回目の実験では大笑いでは脳血流量が増加し前頭前野が活発に機能した.結果,言葉の語想起が増加した.2回目の実験では大笑いが少なく、語想起は変化しなかった」と述べ,「高次元の前頭前野の機能を活性化させるためには心からの感情を伴った大笑いが必要であると言える」と報告している.
また,畑野(2009)は,Lorishのface scale法を簡略化した5段階の表情図形のうち,レベル1からレベル3を笑あり群,レベル4とレベル5は笑いなし群として下記の図に分類した.
私たちの実験では,畑野の実験の2回目と同様の結果を得た.実際の検査場面では,被験者のほとんどが4または5の表情であったため、畑野の言う効果が表れず,期待していた結果が得られなかったものと考える.後に被験者に実験の感想を聞いてみると,「笑っていいのかわからなかった」という意見が一部あった.また,提示条件が整っていなかった事と,すでに見た事がある人がいたことにより,実験結果が左右したのではないか,と推測する.
今回の実験では,「笑う」という行為が記憶に及ぼす影響を明確にすることができなかったが,その可能性を垣間見ることができた.実験方法の精査,提示方法の見直しを行い,より深い「記憶」と「感情」の関係性を模索していきたい.

文献

1)畑野相子(2009):笑いが脳の活性化に及ぼす影響.滋賀医科大学
2)上野大介ら(2008):感情を伴う記憶に個人の気分特性が及ぼす影響.大阪大学大学院人間科学研究科
3)野畑友恵:感情刺激が前後の記憶に及ぼす影響.九州大    学

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