卒業研究発表

対象者に主体的に選択してもらう行為が距離に及ぼす影響

2017年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

 作業療法士は治療中に対象者に接近し,また身体に触れる場面がある.そこで本研究では,治療者と対象者の心理的距離と物理的距離について考察することにした. 距離について,数値として表されたものを物理的距離と言い,二者間の心理によって左右される距離を心理的距離と言う.心理的距離が遠いと物理的距離が長くなり,心理的距離が近くなると物理的距離も近くなると言われる. この二者間の距離が短くなる理由は,信頼や安心といった感情から対象者が治療者に接近する為と考えられる.
 本研究の目的は,対象者に作業時の作業工程を自由に選ぶという作業の選択を主体的にさせることで,治療者と対象者の距離にどのような変化があるかを探ることである.

対象および方法

 大阪医療福祉専門学校のボランティアにより集まった学生30名(作業療法士学科,理学療法士学科,言語聴覚士学科,視能訓練士学科,診療情報管理士学科)
 方法は無造作に自由群,指定群に分ける.検者が被検者に近づき,被検者が不快と感じたところで止まり,物理的距離を測定(cm)する.その後,両群に分け,貼り絵を10分間実施.終了後,物理的距離を測定(cm)する.終了後,アンケートを実施.

結果

 指定群と自由群の検査前と検査後での被検者と検査者の物理的距離の差の平均を比べた(図1).自由群の平均は22だった.それに対し,指定群の平均は34であった.t検定の結果この2群には有意差が見られなかった(t<0.05).そこで,指示されたいかどうかをアンケートをとり,作業工程の取り組み方が対象者に合っていた群と合っていなかった群での検査前と検査後での物理的距離の差の平均を比べました.合っていた群群の平均は44で合っていなかった群の平均点は12であった.t検定の結果この2群には有意差が見られた.

考察

 どの対象者に対しても単に主体的に選択をさせればいいというわけでなく, 作業提供前に対象者が指示される方が良いかを事前に聞き,知ることが大切だと考えた.医療者とクライエントはお互いの意向とニーズを確かめ合いながら医療関係が進むと言われているが,対象者に作業工程を指示されるほうが良いのかを聞くことで,意向とニーズを確かめ合えることに繋がる.そして,対象者に合った作業工程を提供することで対象者と治療者の心理的距離が縮まると考える.

まとめ

 臨床で活かすために,作業提供前は,作業療法士は対象者に作業工程を一度,自分で自由にやってみたいか,初めから治療者に指示してもらいたいかどちらが良いかを聞き,対象者に合った取り組み方を知る.そして,作業実施してもらう際は,作業療法士は対象者にあった作業工程の取り組み方に合わせた作業療法を行っていく.そうすることで信頼や安心といった感情が生まれ,対象者との距離が縮まると考える.

文献

1)吉川ひろみ:作業~治療メカニズムとしての目的性と意性~.OTジャーナル ,2 (2),2004.
2)伊藤紀生:距離についての一考察.137‐140
3)吉川ひろみ:医療における実践‐インフォームドコンセントとチーム医療,772‐776.

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