卒業研究発表

就労を目指す高校生自閉症スペクトラム児に対して自己表現を中心とした SST(ソーシャルスキルトレーニング)を試みた例

2017年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景

 現在思春期と青年期に知的障害を認めない自閉症スペクトラム児の相当数が,適切な相談機関や就職支援施設に出会えずに二次障害で苦悩している¹)現状がある.高校生にとってソーシャルスキルトレーニング(以下SST)を実施する意義は青年期以降に必要となる高度なソーシャルスキルが存在することやそれまで学んできたスキルをさらに洗練させることが社会に出る全段階として重要である²)と考える.今回ことばの相談室で、17歳の自閉症スペクトラム児の就労を目的とした自己表現を中心にSSTを試みた訓練(検査も含む)を8回にわたり行ったので、ここに報告する.

症例紹介

氏名:A様 性別:男 年齢:17歳
医学的診断名:自閉症スペクトラム
家族:父,母,祖母 主訴:自らが関わり積極的に会話を構えずにできるようになってほしい.
教育歴:高等学校(普通科)2年在籍中

訓練計画

 本症例はすでに17歳であり,能力の弱い部分を大幅に伸ばしていくことは難しいと考えられたので,A様のすでに持っている知識や能力を伸ばすことを目標にSSTの実施を検討した.A様は、症例は高校卒業後,進学ではなく就労という両親の意向があるため,就職・会社をイメージできるような内容を取り入れる方向性を検討した.
 両親の主訴と上記の検討事項から,長期目標を【円滑なコミュニケーション能力を身に着ける】,短期目標を【他者理解を深め,意図伝達の促進をはかる】と設定した.訓練は個人ワークとグループワーク( 以下GW )の両方を取り入れ,個人ワークで学んだことをGWで般化できるよう訓練プログラムを制作した.

訓練経過・結果

 第3回以降は個人訓練とGW訓練を行った.3回目と4回目は就職にむけた自己分析を目的に,自己紹介をおこなった.症例が自己紹介する姿をビデオ撮影し,自身の発表の姿をフィードバックした.4回目のGWでは多人数の前で自己PRを行った.第5回,6回では話題テーマを予め学生が決め,それをもとに他児とクイズを作成する,事前会話の中からテーマとなる主題を聞き出すといった訓練を行った.第7回では,前回の内容をふまえ,テーマを決め,同年代の他児と,話し手と聞き手の役割を分担したフリートークを行った。最終回は,他児と旅行の計画を立てた.実際に旅行を実施することは事前に伝え,実際のイメージを持つよう促した.

考察

 A様は第3回,4回,6回で決められたテーマや項目に対しては会話を広めることはできたが,第7回のフリートークでは自らの話題を広げることはほぼできなかった.A様は決められたテーマで興味のある話題については意欲的に発言するが,興味のない話題や苦手な事項については自ら会話を広げることは難しいと考える.これは他者の言う通りに従うことで,自分で月団する不安から解放される³)というように自分で考えるより他者の意見を受け入れることで不安から解消されると考える.
 3回目4回目は自己紹介を通じ「自己理解」を深めた.就労を目標とする症例において,就活の際の履歴書や面接に結びつき,就労スキルの向上に繋がったと考える.今後はA様自身が主体性をもった訓練プログラムを立案し,今できる能力を伸ばし社会に適応できるスキルを身に着けていく事が大切であると考える.

文献

1)吹田 恭子:思春期と成人期の知的障害のない自閉症スペクトラム症に対するコミュニケーション・スキルの向上を目指した集団精神療法の成果
2)渡辺 弥生 原田 恵理子:高校生における小集団でのソーシャルスキル及び自尊心に及ぼす影響
3)松本 拓真:自閉症スペクトラム障害の受身性にかんする研究.2015
4)木谷 秀勝、中島俊思 他:青年期の自閉症スペクトラム障害を対象とした集中型「自己理解」プログラム、山口大学教育学部付属教育実践総合センター研究紀要、第41号、2016、63-70
5)米田 衆介:自閉症スペクトラムの人々の就労に向けたSST、精神療法、第35巻第3号、2009、318-32

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