卒業研究発表

「他者と関わる中で段階的に成長をみせた自閉症スペクトラム児の記録」

― 要求・質問・感情の表出について ―

2017年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

はじめに

 今回,言語コミュニケーション面に遅れをもつ自閉症スペクトラムの7歳男児を担当する機会を得たので,その計8回における訓練結果について以下に報告する.

症例紹介

 7歳男児,自閉症スペクトラム.通常の小学校に通い,特定の教科において支援学級を利用.放課後はデイサービスに通所.

初期評価

 言語面において,学生の指示に合った行動をとることが可能,発話は1~2語文が主で,学生の声掛けに対する応答が中心である.社会性においては,一度他のことに気がそれてしまうと,一人遊びになってしまい声をかけるも無反応(以下NR)になることが多い.

目標設定

長期目標:自分の要望(「教えて」「手伝って」など)を言葉で伝える
短期目標:場面の状況を理解し、それに見合った気持ちの表出をする

訓練内容

 感情の表出を促すため,本児の好きなキャラクターを用い“楽しく居心地のよい場所”になるよう場面設定をした.イラストが表す表情と文字のマッチング,状況の理解や因果関係の理解を促す絵画配列, 学生とのやりとりを増やす為,条件付けを用いた内容を中心に訓練を行った.

結果

 課題が本児にとって難しいものや,興味のないものであると,何も言わず部屋を出て行くことが多かった.しかし,その回数も減り,一人遊びやNRの回数も減少した.そして要求や質問などの様々な表出が増え,訓練最終回では「わからない」や「Aちゃん(本児)がしんどーい」など,本児自身の気持ちを言葉で学生に伝えることができた.

考察

 山本ら2)は『叙述言語行動が成立するためには,まず「話し手」と「対象物」との 2者関係の観点からは,①子どもにとって興味のある物を利用したり,興味の幅を広げていく.次に,「話し手」と「聞き手」との関係という観点からは,②聞き手(伝達すべき相手)が自閉症児にとってポジティブな強化刺激になって,はじめてその聞き手に向かって語りかけようとするはずである.』と述べている.本児の好きなキャラクターを用い様々な内容を提供したことが①にあたり,話すスピード,タイミング,気持ちのひきつけ方が本児の状況にマッチしたこと,毎回の訓練で適切な足場かけをすることでSTSとの関係が本児にとって伝達しやすい存在となったことが②にあたると考える.以上の事から、短期目標は達成できたと考える.長期目標については,「教えて」までは言えず「わからない」に留まったが今後も本児にこのような環境が提供されることで,表出が期待できると考えている.

まとめ

 自閉症児の最大の特徴は,人との交流に快を感じにくく,何時間でも一人でいることに苦痛を感じないという点だ.しかし関わる存在との信頼関係と環境設定によって様々な表出が可能であることが今回の研究で明らかになった.本児を含む全ての自閉症児にとってこのような環境が提供されることが必要である.

文献

1)藤原加奈江:自閉症スペクトラムのコミュニケーション障害 音声言語医学51:252-256,2010
2)山本淳一・楠本千枝子:自閉症スペクトラム障害の発達と支援 Cognitive Studies14(4),621-39.(Dec.2007)

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