卒業研究発表

対人興味を引き出すためにINREALの姿勢を元に指導を行った症例

― PECS(Picture Exchange Communication System)を用いて ―

2017年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

はじめに

 他者への関心が薄かった自閉症児に対し,INREALの技法を用いながら要求場面にPECS(Picture Exchange Communication System)を介在させて他者への伝達の成功を積ませた.それにより,他者を意識し始めコミュニケーション意欲が向上し,能動的な伝達行動が見られるようになった症例を報告する.

対象及び方法

 T児,3歳,女児.医学的診断名は自閉症スペクトラム障害,療育手帳B2である.身体発達に目立った遅れはないが,現在に至るまで有意味発語は全くない.家族構成は,父,母,弟,本児の4人家族.母からの主訴は,要求を的確に表現できるようになってほしいとのことであった.
 訓練内容はことばの相談室内で様々な感覚運動遊びとした.その際留意した点については①設定した遊びを通してコミュニケーションの意欲を刺激するINREALの技法を用いて関わり,児がコミュニケーションする楽しさを感じられるようにする,③一人では解決できないような場面を設定し,PECSを使用しながら学生(以下STs)援助を求めるよう促す,である.

結果

以下,6つの点においてコミュニケーション面での改善がみられた.①アイコンタクトの成立,②共同注意の成立,③一緒に遊べるようになった,④やりとりが2ターン成立,⑤PECSを物々交換ではなく,行為の要求の際に使用できるようになった,⑥児の伝達手段としての指さしや発声が見られるようになったである.訓練開始当初(1回目~3回目)はアイコンタクト及び共同注意は成立しなく,要求は物品の手渡しかクレーン現象行っていた.そのため,訓練中盤(第4回目~第6回目)で,INREAL とPECSの導入を行った.
 物の要求であれば自発PECSの使用が可能となった.訓練終盤(第7回目~第8回目)では,アイコンタクトとさらに,共同注意を含んだ三項関係が成立STsの声掛けに視線を合わせて「あ」と発声をしたり,PECSを手渡す際にも視線を合わせて「あ」と発声をする様子が見られた.

考察

 児のコミュニケーションの変化に影響を及ぼした要因として,①STsがSOULの姿勢をとったことで,児にとって信頼できる相手となったこと,②PECSが視覚優位であった児にとって明確な手段であったことが挙げられる.また,PECSを利用したことによって児からの自発的な伝達行為が増え,コミュニケーションが成立することによって成功経験を積み重ねたこと,そして,INREALの技法を用いたことによって,児の非伝達行動をSTsが意図付けをしながら関わることができたことも要因の1つだと考えられる.

まとめ

 今回視覚優位で対人興味の薄い児に対し,INREALの姿勢を持ってPECSを手段として使用することで,対人への興味を育むことができた.次の目標としては,児のコミュニケーション意欲をさらに引き出し,三項関係の恒常的な成立・伝達行為の般化を目指すことが挙げられる.また,発声にこだわらずに機能的コミュニケーション手段を確保していくのもまだ必要な段階だと考えられる.

参考文献

1)アンディ・ボンディ/ロリ・フロイト著 2006 園山茂樹/竹内康二訳 自閉症児と絵カードコミュニケーション 二瓶社

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