卒業研究発表

左前十字靱帯を断裂し、前十靱帯再建術を施行した症例

― 加速的リハビリテーションによる膝関節可動域と疼痛に着目して ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

 前十字靱帯損傷は代表的なスポーツ膝外傷の一つであり,術後プロトコールは様々な見解がある.従来からのリハビリテーション(以下リハビリ)は,術後早期の関節可動域訓練(以下ROMex)により,大腿骨側の骨孔と再建靭帯との癒合不全や疼痛の予後不良を招く恐れがあるとし1),術後7〜14日目よりROMex開始としている1,2).一方,術後早期よりROMexを行う加速的リハビリを肯定している文献も多く,術後固定期間を3日,14日で比較し,膝前方不安定性に有意差は認められなかった報告などがある2).本症例では加速的リハビリを採用し,関節可動域(以下ROM)の獲得と疼痛の予後が良好であったので,以下に報告する.

症例紹介

 本症例は,アルティメットの試合中,膝を蹴られて外反強制により受傷した20歳代女性である.一般情報として,身長152.1cm,体重66.4kg,BMI28.7である.診断名は左膝前十字靭帯損傷,手術は左前十靱帯再建術(同側半腱様筋採取)を施行した.

理学療法評価と治療

 術前の左膝ROMは伸展0°,屈曲150°であった.術直後は炎症により左大腿周径は膝蓋骨上縁部で2cmの腫脹が認められた.左膝ROMは伸展-15°,屈曲65°,運動時痛は屈曲伸展時にNumerical Rating Scale(以下NRS)で6,安静時痛は2であった.左足関節背屈ROMは,左膝関節屈曲位10°,左膝関節伸展位0°.左大腿四頭筋は触診にて収縮は認められなかった.治療として,炎症と腫脹の早期消失のため生活管理を行った2,3).手術後による軟部組織の癒着予防のため膝関節周囲のモビライゼーションを実施1,4).左大腿四頭筋の収縮困難にはElectric Muscle Stimulationで治療し2,3),大腿四頭筋セッティングを行なった3).左膝関節伸展ROM制限は,左膝関節伸展位で左足関節背屈制限がみられた.股関節伸展位および屈曲位では,左膝関節伸展ROMに差は認められなかった.よって,制限因子は腓腹筋の短縮と考え持続ストレッチを行った4).

結果

 最終評価では,術創部の炎症所見は初期評価時と変 わらず認められた.左大腿周径は膝蓋骨上縁部で1.5cm 減少した.左膝ROMは伸展0°,屈曲120°.運動時痛では左膝関節屈曲時に膝蓋骨上部にNRS2,安静時痛はNRS0であった.左大腿四頭筋の収縮力は,初期評価時より改善は認められ,セラバンドシルバー色(40cmの伸張により抵抗力5.7kg)を下腿近位位部および遠位部に装着し膝伸展することが可能となった.

考察

 左膝関節屈曲ROM制限と疼痛は,最終評価時も認められた.創傷治癒過程による炎症と手術時の関節内侵襲で起きる浮腫や出血と組織損傷が原因となり,皮膚や膝蓋上嚢が癒着していると考えられる3,4).治療は継続し,消炎の時期にROM制限および疼痛は改善されると予測している.左大腿四頭筋の筋力低下は,関節水腫の影響と前十字靭帯に存在する受容器が欠損し,固有感覚機能の低下と中枢神経系の影響によってフィードバックが行えなかったことが原因と考えられる2).

まとめ

 再建術後早期からROMの獲得は膝関節の不安定を惹起せずに伸展制限を減少させることができ,安全にROM獲得が可能であった.また疼痛の予後は良好であった.この結果より,加速的リハビリの実施は早期退院が可能となり,早期の職場復帰,学生は長期間の欠席を要せずに授業に参加し,社会的損失の軽減が期待できる.しかし,スポーツ復帰することは,グラフトの成熟度や健患比など様々な要因があり,長期間制限されることが現状であると考えられる.

文献

1)奈良勲:理学療法士臨床判断フローチャート.文光堂,東京,2009,64-69.
2)公益社団法人 日本整形外科学会,日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会:前十字靭帯損傷診療ガイドライン,南江堂,東京,2013,84-85,153,158-161.
3)細田多穂,柳澤健:理学療法ハンドブック改訂第4版.共同医書出版社,東京,2013 ,332-344,358.
4)小柳磨毅,中江徳彦・他:ACL再建後の理学療法.理学療法学.44,2017,32-37.

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