卒業研究発表

左大腿骨頸部骨折により左人工骨頭置換術を施行された症例

― 運動学習の効果について ―

2017年度 【理学療法士学科 夜間部】 口述演題

はじめに

 本症例は,股関節周囲に機能障害が生じており, アプローチを行うも身体機能面に著明な改善は得られなかった.認知機能低下から杖の操作が困難となっており,運動学習を中心としたアプローチを行った結果,杖歩行に改善が認められたので以下に報告する.

症例紹介

 本症例は,80代の男性で転倒により左大腿骨頚部骨折を受傷し,左人工骨頭置換術,前側方アプローチを施行された.入院前ADLは全て自立で,屋内は杖なしで,屋外はT字杖を用いた歩行であり,現在のADLは起居・端座位・移乗は監視レベル,移動は車椅子で介助レベルである.

理学療法評価と治療

 改訂長谷川式簡易知能スケールは初期18/30点,最終14/30点であり,治療は認知機能の低下から動作毎に指示を要した.右T字杖歩行では左腋窩介助にて2動作で行い,歩行スピードは遅く歩幅は狭い.さらに杖の引き込みや杖のつく位置・タイミング等にばらつきがみられ,動作手順に誤りが見られる.
 運動学習を中心としたアプローチとして,①歩行前に手本を見せる,②患者の歩行動作に誤りがあれば「口頭指示→タッピング→他動修正」の順で介助を変更(プロンプト)する,③歩行後のフィードバックで患者に動作の順序を述べてもらい動作を確認する,④再度歩く,ことを行った.

結果

 最終評価時の歩行では,近位監視にて歩行可能となり,歩行スピード,歩幅が初期と比べ改善した.杖の引き込みはやや残存するも,杖のつく位置・タイミング,動作手順は改善が見られた.

考察

 アプローチ①により空間的ワーキングメモリーが活用され,②にて時間遅延法のプロンプト使用により反応の自発的な生起が促されたと考える.③にて動作手順の言語化により,ワーキングメモリー音韻ループの活用と同時に陳述記憶化する事ができ,さらに探索活動が賦活されたと考える1).これらのことから杖歩行の動作手順が定着し,動作の習慣化に繋がったと考える2).
 次に認知症患者に有効なアプローチについて述べる.認知症患者では,失敗行動の繰り返しが適応障害を助長すると言われており,成功体験をすること・賞賛することが重要である3).賞賛する際は,成功体験の情報を加えることで外在的フィードバックKRが活用され,パフォーマンスの向上が認められると言われている4).

まとめ

 本症例は,認知機能の低下から杖歩行が困難となっていた.デモンストレーション,フィードバックによるワーキングメモリーの活用,時間遅延法にてプロンプトを使用するなどの運動学習を中心としたアプローチを行ったことで,動作手順が定着し,杖歩行に改善が認められたと考える.また,成功体験を増やし,患者を賞賛する事が強化刺激として有効であることから,環境設定や,患者のモチベーションを重要視していくことで更なる改善に繋がると考える.

文献

1)尾崎啓次,千野根勝行・他:認知症高齢者に対するボール拾い課題の認知・前頭葉・注意機能に対する効果―3症例による検討―,日本理学療法学術大会抄録集.42,Suppl2,2015.
2)松井剛,加藤宗規:やや高度の認知症患者に対するトイレ動作獲得に向けた段階的な応用行動分析学的介入,日本理学療法学術大会抄録集.43,Suppl2,2016.
3)野津加奈子,山崎裕司:認知症患者の立ち上がり練習における視覚的プロンプト, シェィピングの効果.高知リハビリテーション学院紀要.8,2007,63-66.
4)山下順子,磯野賢・他:KR付与の方法が運動学習に与える影響,日本理学療法学術大会抄録集.36,Suppl2,2009.

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