卒業研究発表

優秀演題

股関節術後理学療法における反省的検証

― 足部アーチ機構の重要性について ―

2015年度 【理学療法士学科 夜間部】 優秀演題

はじめに

今回,転倒により左大腿骨転子部骨折にてγ-nailによる骨接合術を施術された症例を担当する機会を得た.歩行不安定による股関節外転筋,下腿三頭筋の筋力増強運動を中心に治療を行っていたところ,左脛骨内果周辺部に疼痛が出現した.股関節疾患においても足部のアライメント・機能に着目することで,二次的に生じる疼痛を予防できる可能性を検討したので以下に報告する.

症例紹介

70歳代女性.診断名は左大腿骨転子部骨折.現病歴は外出先にて転倒し受傷.観血的骨接合術(γ‐nail)施行後57日目,リハビリ治療中において初期に見られなかった左脛骨内果周辺の疼痛が出現し,術後65日後に疼痛を残すものの在宅へ退院された.既往歴には平成15年に交通事故による小腸ストーマ造設術施行,右視覚・聴覚障害がある.

評価と治療

疼痛評価では術後57日において左脛骨内果周辺の疼痛が出現.歩行時立脚終期に同部位の疼痛,足関節底屈時での収縮時痛を認め,疼痛の量的評価はNumerical Rating Scaleにおいて6/10であった.一方,レントゲン所見,神経症状に異常は認めず,徒手筋力検査において左足関節底屈は3→4(初期→最終),左足趾屈曲は1→3へ増強を認めた.舟状骨高は右が地面より3.0cm,左が2.5cmと左右差を認めた.治療初期,中期では手術侵襲や術前アライメントより低下していた左股関節外転筋や足関節底屈筋の筋力増強を中心として行っていた.歩行において足関節底屈筋の筋力増強に伴い前方への推進力の改善は見られたものの,同時に左内果周辺の疼痛が出現した.疼痛出現に対し,左足部内側縦アーチ,横アーチへのアーチパッド挿入および,左足趾屈筋群の再教育により疼痛は軽減した.

考察

足部の機能として,アーチ形成,歩行におけるロッカーファンクション機能が存在する.まず横アーチの機能として立脚後期において足部の剛性を高め,テコとしての機能を高めるものがあり,これは内側・外側縦アーチに影響を及ぼす.その横アーチの構成においては,足趾の所謂「浮き趾」の有無が重要となる.また,立脚後期ではフォアフットロッカー機能(以下FFR)が存在する.FFRも足底筋膜を緊張することで足部の剛性を高める機能を有する.さらに内側縦アーチの低下は距骨下関節の過回内を生じる.武田らによると,過回内を生じた足部の荷重は外側へ偏移し,その結果,後脛骨筋などの下腿内側筋群は伸張位となるため正常時以上のストレスがかかることで疼痛が発生するとされている.
以上のことから,本症例では足部での母趾・第5趾の「浮き趾」,横アーチ・内側縦アーチの低下,それに伴う距骨下関節過回内,FFRの低下が素因としてあったこと.そこに,底屈筋群の筋力増強に伴い,蹴り出しのための活動量が増加したことで内果直下の腱鞘を通る後脛骨筋へのストレスが増加したことが誘因となり後脛骨筋腱の炎症が生じたのではないかと考える.
このような場合の予防対策の1つとして挙げられるものに足底挿板療法があり,足底板の機能目的として,筋原性ならびに関節原性足部アーチ不全障害を改善するための支持,足部変形の整復と矯正が挙げられる.本症例の場合では,立脚相での剛性が無い場合,過回内を生じ,テコが機能しない場合の適応となる内側アーチ載距突起部パッドや,立脚後期にテコの機能が損なわれる場合に適応される横アーチパッドが適切であると考える.さらに,足底挿板療法以外にも福山らによると浮き趾は正常群に比べ,足趾把持力が低下することからタオルギャザーやつま先立ちなどでの足趾把持力の向上を行うことも有効的であることが考えられる.

おわりに

股関節の疾患に対しても,下腿の筋力増強を行う際,足部アライメントの確認・逸脱点に対しアプローチを行うことで疼痛を未然に防ぐことができるのではないかと考えた.また,福山らによると110例に対し,浮き趾は母趾で42.7%,第5趾で78.2%認めたとされていることから足部アーチへの着目はどの疾患に対しても重要であることが示唆される.さらに,予見される二次障害に対する予防アプローチの重要性を再認識した.

文献

1)山嵜勉(編):整形外科理学療法の理論と技術.MEDIC- ALVIEW.東京,1997,36-83.
2)川村次郎,陳隆明・他(編):義肢装具学.医学書院. 東京,1992.
3)福山勝彦,小山内正博・他:成人における足趾接地の実態と浮き趾例の足趾機能.理学療法科学.24,2009,683-687.
4)武田さおり,尾田敦・他:シンスプリント症例の足部アライメントについて.理学療法学.32,2005,160.

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