卒業研究発表

優秀演題

正常眼を対象にした立体視差に影響する要因の研究

2015年度 【視能訓練士学科 1年制】 優秀演題

背景

顕性の眼位ずれがなく,また矯正視力が良好であるにも関わらず,近見立体視の結果が正常とされている60secに満たない者が見られた.このことから,立体視の結果に影響を及ぼす要因は何かを検討することを研究目的とした.影響を及ぼす可能性のある要因として,「不等像視」「瞳孔間距離」「融像幅」「屈折値」の4つを挙げ,それぞれについて立体視差との相関関係を検討した.

対象および方法

対象者は,大阪医療福祉専門学校視能訓練士学科1年制の眼疾患のない20代30代の女性40名であり,検査日は2015年8月18日であった.全ての検査を矯正下で行った.最高視力の出る屈折矯正値と瞳孔間距離については,被検者からの申告による値を用いた.また近見立体視の測定には,視差が15~480secまであり,細かい立体視力を測定するのに適しているTNO stereo test(以下TNO)を用いた.また,不等像視の測定にはNew aniseikoniaを,融像幅の測定にはPrism barを用いた.なお,融像幅は開散側のBreak pointと輻輳側のBreak pointの値を足し合わせたものとした.

結果

はじめに,立体視差と4つの要因各々との相関や立体視差と複数要因との相関を分析したが有意差は見られなかった.そこで,各条件に対するTNOの結果を4条件に分け(15sec,30sec,60sec,120sec over),それぞれの傾向を検証した.各条件内の平均値等を比較したところ,融像幅と屈折の左右差(0~0.25Dを左右差無しとした)においてのみ,視差が大きいほどその割合や平均数値が減少する傾向があることが分かった.(表1)

考察

今回,「不等像視」「瞳孔間距離」「融像幅」「屈折値」のいずれとも立体視差との相関関係が見られなかった.このような結果に至った要因として被検者の人数の影響が考えられる.特に,視力が良好でありながら120sec overしている被検者が40名中7名であったこと,さらに両眼視機能の成立条件に関わると考えていた不等像視のある被検者が40名中7名であったこと等,サンプルの少なさにより比較検討が不十分であったと考えられる.研究結果からは統計的に有意なものは得られなかったが,立体視の結果を15sec,30sec,60sec,120sec overの群に分け,融像幅の平均値,屈折値の左右差の有無との関係を見たところ,立体視差の小さい15sec,30sec群では融像幅の平均値が広いことが分かった.また,屈折値の左右差との関係においても,立体視差の小さい15sec群では100%,30sec群では60%以上のものが左右差無しであった.このことから,融像幅はある一定範囲の広さを有していること,また屈折の左右差が無いことが,より小さい立体視差の獲得に関与している可能性が考えられる.

まとめ

立体視差に影響を及ぼすものは何であるかを研究したところ,「不等像視」「瞳孔間距離」「融像幅」「屈折値」4つの要因について,統計的に有意な結果は得られなかった.立体視の検査は,検査距離や照明の状態等,他の要素によっても結果に影響を与えてしまう事があるため,検査条件の統一も必要であると考えられた.しかし,立体視差を4群に分け,融像幅の平均値および屈折値の左右差の有無との関係を比較したところ,立体視差が小さい人ほど融像幅の平均値が広く,屈折の左右差は見られなかった.今回の研究で4つの要因における立体視との相関は見られなかったが,何らかの傾向があることはうかがわれた.今後はさらに母数を増やし,立体視差とその要因について研究を進め検討していきたい.

文献

1)丸尾 敏夫,久保田 伸枝・他:視能学,文光堂,東京,2013,164-192. 2)丸尾 敏夫,本田 孔士・他:眼科検査ガイド,文光堂,東京,2014,355. 3) 日本学科学会編集:日本眼科全書 第7巻 第4冊.東京,金原出版,1954,1954-61.

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