卒業研究発表

優秀演題

色彩が運動イメージに及ぼす影響

― 正確な運動イメージを想起させる色彩の検証 ―

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 優秀演題

背景

今日の作業療法では,様々な色彩や形状の道具を使用されているが色彩の視覚情報による運動パフォーマンスへの影響はあまり意識されていないものと考える.
運動学習において,運動をイメージすることが効果的とされている1).運動イメージは,視覚,聴覚,体性感覚が統合されて得られており2),「色彩」という視覚情報もその中に含まれる.色彩には,「進出色」,「後退色」という距離知覚に影響を与えるものがあることから,運動イメージの正確さに影響を与える可能性が考えられた.今回の研究において,正確な運動イメージを想起できる色彩を明らかにする為,実験検証することとした.

対象および方法

対象者として,大阪医療福祉専門学校の作業療法士学科,理学療法士学科,視能訓練士学科に所属する視覚障害のない20代学生23名に対して,倫理的配慮を説明し,同意を得て実験を行った.実験環境は一辺180 cm からなる3 枚の石膏ボードにて前面,左右側面の三面を作成した(図1参照).実験方法として,①被験者に前方リーチしたイメージをしてもらい,イメージした上肢の肩峰にシールを貼り付け測定肢とする.②箱を測定肢に直進するようシールを照射しながら肩関節に接近させる.③箱の先端に測定肢の中指先端が到達可能と予測される距離(以下,予測距離)を回答させる.③に使用する箱は,紫色,黄色,緑色,赤色,青色の順番で測定し,一回測定するごとに,1分間の休憩(被験者閉眼)を挟むこととする.5色の箱と被験者との距離を測定した後,被験者の上肢長を測り,その後にアンケートを実施した.分析方法として,上肢長と各色の予測距離とで因果関係があるのかを重回帰分析で明らかにする.また,アンケートの結果から進出色,後退色,両者に含まれない中間色として選択された色の割合を単純集計で分析した.

結果

重回帰分析では,紫色は他の色より有意差があった.アンケートによる単純集計では,進出色は赤色,後退色は青色,中間色は紫色が最も多い結果となった.

考察

今回の実験において,運動イメージを想起しやすい色彩は紫色であることが示唆された.また,紫色が中間色として最も多い割合を示している.このことから,紫色は距離知覚への影響が極めて少ない色彩であると考えられ,前述した重回帰分析の結果に影響したものと推測される.実際の作業療法の場面において,紫色の道具を使用することにより,より効果的なリハビリを行える可能性が示唆された.

今後の展望

今回の研究は基礎研究になる為,実際の場面による紫色の道具を使用した作業遂行能力の検証は行っていない.その為,引き続き実験検証を行う必要があるものと考えられる.

文献

1)門馬博:属性の異なる運動イメージ能力評価法の相互関係性に関する検討.理学療法科学,29(1),2014.45-49.
2)小堀聡:人間の知覚と運動の相互作用~知覚と運動から人間の上方処理過程を考える~
3)樋口貴広・森岡周:身体運動学 知覚・認知からのメッセージ.三輪店,2008,8-13.

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