卒業研究発表

優秀演題

在宅高齢者の生活満足度と環境要因の関連性

― 生活満足度尺度Kと包括的環境要因調査票を用いて ―

2015年度 【作業療法士学科 昼間部】 優秀演題

はじめに

近年,在宅高齢者の生活満足度に関連する要因が研究されているが,その多くが研究者独自のアンケートを用いたものである.出村ら1)は在宅高齢者の生活満足度は,性差を始めとする個人因子といった観点から捉えられてきたと述べている.高齢者の生活機能と障害全ての構成要素に影響を及ぼす重要なものとして環境因子は位置づけられており,議論がされているが多くはない.
そこで我々は,生活満足度尺度(以下,LSIK)と藪脇ら2)によって開発された生活環境を数量化できる包括的環境要因調査票(以下,CEQ)を用いて生活満足度と環境要因の関連性を明らかにする.また,作業療法士が在宅高齢者の生活満足度を向上する為に必要である具体的な環境要因を検討する.

対象および方法

1.対象

65歳以上の在宅高齢者(100人以上)

2.方法

デイケアを併設している介護老人保健施設に依頼,紹介を得て訪問しLSIKとCEQを実施.研究目的や方法を本校倫理審査委員会の承認済みの書面にて説明を行い,同意を得た.分析はLSIKの総得点とCEQの総得点,またLSIKの総得点とCEQの3因子別に重回帰分析を行った.

結果

LSIKの総得点とCEQの総得点を分析した結果強い正の相関が見られた(図1).そのためLSIKとCEQには関連性があり,環境要因が生活満足度に影響を及ぼしていることが明らかになった.
次にLSIKの総得点とCEQの3因子別に分析を行った結果,Ⅰ因子である安心生活環境とⅡ因子である相互交流環境には強い影響が見られ,生活満足度に影響を及ぼしている事が明らかになった.

考察

生活満足度と環境要因には関連性があることが明らかになった.そして,在宅高齢者の生活満足度向上のためにはCEQのⅠ因子である安心生活環境とⅡ因子である相互交流環境といった環境要因が必要であることが明らかになった.今後の展望としては,1つ目に生活満足度に家族環境要因の影響が見られなかったことから,家族の有無に関わらずなぜ影響が見られないかを検討する.2つ目に寝たきりの在宅高齢者など活動が制限されている方を対象にすると,どの様な結果がでるのか検討することが課題だとされる.

おわりに

生活満足度と環境要因には関連性があり,CEQのⅠ因子である安心生活環境とⅡ因子である相互交流環境といった環境要因が生活満足度に影響を及ぼしていることが明らかになった.
上岡3)は従来の在宅高齢者の作業療法アプローチとして心身機能面・活動・参加が目的だとされているが,実際では身体機能面に対する介入の割合が多く「ADL・IADL動作」「生活の活性化・社会交流」の活動と参加に対しての割合が低いためQOLに反映されにくい現状があると述べている.
これらのことから今後の作業療法アプローチとして環境要因に着目し安心生活環境と相互交流環境にアプローチをしていくことがQOL向上に繋がるのではないかと示唆された.具体的な方法として,安心生活環境では住居環境の整備・社会資源の提供,相互交流環境では地域の社会資源の活用・対人交流・役割・趣味活動の促進を支援する必要があると考える.

文献

1)出村慎一,野田政弘・他:在宅高齢者における生活満足度に関する要因.日本公衛誌48(5),2001,356-366.
2)藪脇健司:高齢者のための包括的環境要因調査票実施の手引き.2011.
3)上岡裕美子:生活機能に対応した訪問リハの効果検証に向けた多施設共同研究.理学療法学40(2),2013,138-139.

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