卒業研究発表

優秀演題

各地方自治体における乳幼児医療費助成制度の比較と課題

2015年度 【診療情報管理士学科】 優秀演題

はじめに

日本は現在少子化が進んでいる.その原因として,女性の高学歴化,未婚,晩婚化が挙げられる.合計特殊出生率では,2005年は過去最低である1.26まで落ち込んだが,2012年は1.41となり微増傾向となった.
欧米諸国と比較すると低い水準であるが,子どもの数を多く持たない最も多い理由が「子育てや教育にお金がかかりすぎる」ということであった.
政府の対策としては,子育てしやすい環境を作り,出生率を上げるため,乳幼児医療費助成制度が設けられている.
乳幼児医療費助成制度は,家計が負担する子供の医療費の一部又は全部を自治体が独自に補助する事業である.都道府県は,支出の一部を補助事業として助成する.当該制度は,提供事業の具体的な中身には異同があるものの全国に普及している制度である.しかし,都道府県単位で対象年齢・給付の期間・金額・世帯などに相違が見られ,平等とはいえない.
本研究では,助成制度が少子化脱却に,一指針の有用資料であることを論証する.

本論

1.歴史と現状

医療機関受診の際にかかる医療費は,自己負担の部分と,健康保険適用を受け,直接的には自己負担のない部分とに分かれる.義務教育就学前の乳幼児であれば,一般的な保険の場合は,医療費の2割が自己負担で,残り8割が保険の適用範囲となる.
本研究で注目する乳幼児医療費助成制度は,市区町村が定める条件を満たす世帯に対して,自己負担金相当額の一部又は全部を市町村が助成する制度である.
この制度の始まりは,1961年岩手県和賀郡沢内村(現和賀郡西和賀町)で1歳未満の乳児を対象に国民健康保険にかかる自己負担分の支給を実施したことにある.沢内村では乳幼児医療費の無料化と同時に,保健師を増員し保健教育活動に取り組んだ.そして助成制度が導入された翌1962年に乳児死亡率ゼロを達成したことから,都道府県・市町村が実施する助成制度への補助を行い,現在では全ての都道府県が導入している.
近年,財政力のある自治体では医療費助成の対象年齢を引き下げるだけではなく,所得制限や自己負担も撤廃し始めている.

2.問題点

ここでは,人口はあまり多くないが出生率が全国平均より高い都道府県の島根県・鳥取県と,人口は多いが出生率が全国平均より低い大阪府を比較する.(ただし,島根県と鳥取県同様に入院,外来の区別がある堺市を対象とする)島根県は,就学前までが対象年齢で所得制限はなく,入院は月額2000円,外来は1000円である.
鳥取県は,対象年齢は中学校卒業までで,入院は月額1200円,外来は保険医療機関ごと月4回まで日額530円である.
大阪府堺市も,対象年齢は中学校卒業までで,入院は1入院1000円,外来は日額500円だが,月4回目以降は負担なしである.
以上のことから問題点は,給付金額・期間と対象年齢のばらつきが挙げられる.給付金額・期間は,島根県が月額であるが,大阪府堺市は日額であり,鳥取県は,外来では保険医療機関ごとである.
対象年齢は,島根県が就学以前に対し,大阪府堺市と鳥取県は中学校卒業までが対象である.鳥取県では,平成23年4月1日から就学以前から中学校卒業まで延長となった.

3.今後の課題

乳幼児医療費助成制度は各自治体へ普及中であるが,最近は年齢の拡大に踏みきる自治体もあり,このことは子育て世代の大きな励みになっている.しかし現在,県の基準に上乗せ助成する自治体も増え,居住する市町村での内容の相異で,地域間に格差が生じているが,対象年齢・給付金額・給付条件は全国的統一の必要があるため,国の制度の実施見直しが強く望まれる.しかし未だに国は踏み切らない現状にあり,各自治体は乳幼児医療費助成制度のさらなる拡充を強く望んでいる.

まとめ

本研究では,少子化脱却のために,乳幼児医療費助成制度が必要であると考え,その一指針として,有用な資料を得ることを目的に調査を行った結果,各自治体で,対象年齢・給付金額・条件などが統一されていないことが最も問題であることが考えられた.今後の課題として国が制度化をすることにより乳幼児医療費助成制度を拡充することが望まれる.

文献

1) 衞藤隆他:特集 必携 小児の医療費助成.小児内科.47(7),2015,1130-1145. 2) 西川雅史:乳幼児医療助成制度の一考察(上)青山経済論集.62(3),196-210.

記事一覧
大阪医療福祉専門学校 TOP

CATEGORY MENUカテゴリーメニュー

もっと詳しく知りたい方は