卒業研究発表

視覚的フィードバックと言語的フィードバックの運動学習の比較と考察

― ビデオの有用性について ―

2015年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

脳血管障害片麻痺患者では,感覚の障害や病的筋緊張の存在により正常動作が困難となる.この際,代償として視覚により麻痺側肢の動きを確認しながら運動を行うことがある.この場合,一時的には片麻痺患者にとって麻痺側肢の確実な運動と動作を行うことで心理的な安定をもたらす.
米田1)らの研究では,運動学習は言語性が優位であるという研究結果が報告されている.しかし,視覚フィードバック(以下FB)ではビデオを用いたFBが行われていない為,どちらが運動学習において優位になるのか疑問を抱いた.
Fitts2)らの研究では,初期相,中間相,最終相と3過程に分かれる運動学習過程において,どの相で感覚FBを与えると最も学習効率が良いかについて研究している.その中でも中間相は何を行うかからどのように行うかへ変化する段階であり,この段階では視覚FBが最も学習効果があると結果が報告されている.
そこで私たちは片麻痺患者に効果的な運動学習の確立を目的に,健常者に非利き手でのボウリング投球動作による運動学習を用いて,言語を用いた群とビデオを用いた視覚FBを付与した群で比較を行い,ビデオFBの有効性について検討した.

対象者および方法

対象は本実験に同意を得た大阪医療福祉専門学校,作業療法士学科の学生27名(男性17人,女性10人,平均年齢22.29歳±4.04)を対象とし,視覚FBと言語FBの2群に割り当てた.なお,神経学的・整形外科学的疾患の既往歴がない者を対象とした.
実験機器はビデオ(iPhone)を使用し,検査者の投球動作と投球結果を録画する.
実験内容は,検査者に開始線から5mの所に12cm四方,高さ25cmの直方体のダンボールを標的として置き,非利き手でソフトボールを,下投げで転がして標的に当てるよう指示する.尚,標的の手前1mの位置に遮蔽物を置き,開始位置から遮断する.被験者は練習投球を20回実施する.練習後,初球はFBを用いず投球し,その後,検査者はそれぞれのFBを計5回行った.
データ処理はこの5回ヒットした確率を算出しビデオFBと言語FBを単純集計で比較した.

結果

それぞれのヒット率ではビデオFBは45.83%,言語FBでは30.83%と,ビデオFBが優位になった.

考察

ビデオFBと言語FBでは空間認知情報に差があると考える.
言語FBより優位になった要因として,ビデオを用いることでより運動の円滑さや正確さ・速さをイメージし,その具体的なイメージが映像を通すことで,自身を客観視でき「どのようにすべきか」という中間相の部分にアプローチできた.そして,運動学習が効率的となり,ヒット率が向上したと考える.ビデオFBでは,空間認知情報が多く自己評価が簡易である為,運動イメージが簡易となった.しかし言語FBでは空間認知情報が少なく自己評価や運動イメージが困難となり,ビデオFBが有意な結果を示したと考える.

まとめ

今回は非利き手でのボウリング動作を行ったことで,習熟性の乏しい運動としてビデオFBの有用性が認められた.そこで脳血管障害片麻痺患者に対して動作の手順が変わったもの,例えば上衣の着脱や健側上下肢の車椅子駆動をビデオFBすることで効率の良い運動学習につながると考えた.

文献

1)米田浩久・鈴木俊明:非利き手によるボーリング投球動作を用いた言語的KRの運動学習効果について.関西医療大学紀要.8,2008,74.
2)Fitts P.M.et al: Perceptual-motor skill learning.Academic Pless,New York.1964.

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