卒業研究発表

棒体操の教示にオノマトペが与える影響

― 運動イメージとして近時記憶に働きかける声掛け効果の比較 ―

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

オノマトペとは擬音語,擬態語,擬声語の総称である.藤野ら¹⁾は,「スポーツオノマトペは,運動学習者の記憶に強く働きかけ,運動学習の教示に有効である.」と述べている.さらに,藤野²⁾は,オノマトペを使った運動学習は,やる気や集中力の向上に繋がることを明らかにしている.近年,厚生労働省は2025年問題として高齢者の介護予防の重要性を明言しており,横井ら³⁾の研究で「棒体操が高齢者の転倒予防に効果的である.」と実証された.しかし,作業療法士が治療できる時間には制約がある.そこで,本研究は,高齢者が病棟や自宅での自己練習を行えるよう,棒体操にオノマトペを付加し,運動イメージとして近時記憶への働きかけに効果的であるかの検証を行った.

対象および方法

本校の作業療法士学科学生30名〈男性13名,女性17名,平均年齢(標準偏差)24歳±6.57〉を対象に棒体操の動作再現課題を実施した.倫理的配慮として,口頭,書面での説明と同意を得て行った.被験者をオノマトペありのA群,なしのB群に分け,動画を視聴して頂いた.動画は12種類の棒体操を映した内容である.映像と音声説明は両群とも同一のものを使用し,動作時のみA群にはオノマトペを付加したものを提示した.動画視聴後,思い出せる範囲で棒体操の動作再現をして頂き,実験後のアンケートでは年齢,性別,感想を自由記載にて回答を依頼した.分析方法は,χ二乗検定を用いて両群の各動作別の正解者数を比較した.

結果

各動作で両群に有意差はみられなかった.(図1)
しかし,感想から文中において出現頻度の高いワードを抜粋すると,全体を通しての感想において「難しい」と回答した割合のみ,オノマトペを使用したA群の方が低いという結果となった.

考察

両群において有意差は認められなかった.その要因として「人が外界から受け取る情報量は,視覚が最も多く83%」⁴⁾と言われており,このことから動画による視覚の影響が強かったと考えられる.また,本実験で使用したオノマトペは辞典から選択し,検者が提示したものであった.そのため個人毎にオノマトペの理解が異なり,被験者の運動イメージに繋げることが難しく,近時記憶に働きかけなかったと考える.
感想よりA群では「難しい」と回答したものが少なかったという結果から,オノマトペの楽観的な響きが難しいイメージを払拭できた可能性がある.

まとめ

本研究では動画による視覚情報量が多かったため,聴覚情報であるオノマトペが与える影響は少なかったと考える.しかし,作業療法士として,対象者に自己練習の課題を提案する際に,オノマトペを付加することで難しいイメージを払拭できると考えられる.
今回使用したオノマトペは検者が一方的に提示した.今後の展望として,棒体操を行う前に被験者と共にオノマトペを付加する段階を踏むことで,運動イメージとして近時記憶に働きかけるのではないかと考える.

文献

1)藤野良孝,井上康生・他:運動学習のためのスポーツオノマトペデータベース.日本教育工学会論文誌.29,2005,5-8.
2)藤野良孝:中学校で使用されているスポーツオノマトペのイメージに関する実態調査.情報学研究. 朝日大学経営学部電子計算機室年報.20,2011,27-34.
3)横井賀津志,内藤泰男・他:地域在住高齢者に対する「棒体操」の転倒予防効果. 作業療法.31,2012,189-202.
4)教育機器編集委員会編:産業教育機器システム便覧.日科技連出版社.1972.

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