卒業研究発表

指差と聴覚的フィードバックが記憶に及ぼす影響

2015年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

はじめに

飯山 (1980) 1) は,指差し呼称には「記憶」を促進される効果が存在すると主張している.
さらに,Baddeley のワーキングメモリのモデルは,中央実行系と,それに隷属する視空間的記銘メモ,音韻性ループの3つの機能から成り立っている.音韻性ループの中で,情報の符号化が言語産生過程に基盤を持つとみなされる場合には構音性,情報の符号化が聴覚認知過程に基盤を持つとみなされる場合には聴覚性と表現されている.つまり,音韻性ループで一時的に保持された言語は,構音性ループでは外的発声された情報を精緻化リハーサルが行われ,同時に聴覚性ループでは外的発声された情報を聴覚的フィードバックによって,より精度の高い記銘が行われることで記憶が促進すると考えた.以上により,指差呼称と外的発声を同時に行うことで,聴覚的フィードバックも行われるため,記憶が促進されると考えた.

方法

実験対象者:大阪医療福祉専門学校言語聴覚士学科 1年生32名 (有効解答者30名)
実験期間:2015年4月下旬から5月上旬
実験場所:ことばの相談室,聴覚聴検室
使用単語:SLTA-STの高頻度語,失語症語彙検査の高頻度高心像語と高頻度低心像語から抜粋し,計56単語を用いた.
手続き:系列再生課題で行った (1.5秒間ごとに1単語を提示し,合計14単語を覚えてもらった.解答時間は60秒とした)

結果

指差有無と発声有無の2要因被験者内分散分析を行ったところ,発声有無の主効果が有意傾向であった (F(1, 29) = 3.008, p < .10).だが,指差有無の主効果は有意ではなかった (F (1, 29) < 1).また,2つの要因の交互作用も有意ではなかった (F < 1).さらに,単純主効果の検定 (t検定) を行った結果,発声有無によってのみ平均の差が有意であった (t(29) = 2.258, p < .05).すなわち,発声することによって記憶単語数が減少した.また,指差の有無によって記憶単語数に影響を与えなかった.

考察

本研究で,以下の3つのことが証明された.
① 指差の有無によって記憶力に影響はなかった.それは,芳賀 (2007) 2) や内藤・他 (2011) 3) の研究により,指差しは視線を焦点化し,より長く対象物を注視するために必要なことで,さらに,文字の位置を記憶することに有効であった.しかし,本研究では,時間が限定的であったため,注意の持続は出来なかった.また,記憶対象そのものには影響しないからこそ,指差しを行うことで記憶成績が向上しなかった.
② 発声した単語が記憶に悪影響を及ぼした.それは,提示時間の関係上,発声リズムを検査者側で指定したことにより,被験者自身のリズムで記憶することが出来ず,記憶成績に干渉を与えたと考えた.
③ 指差呼称は記憶促進に影響しない.それは,湯舟・山口 (2014) 4) の研究により,呼称に伴う音韻符号化,外的発声,フィードバック知覚などの低次の処理にワーキングメモリの容量を取られ,リハーサルのためのワーキングメモリの容量がなくなり,記憶の妨げになったと考えられる.
本研究では,指差しは提示時間の長さにより有効性がある可能性が示唆された.また,声出しを行うことが,干渉になってしまうという見解と同時に,発声リズムが記憶向上の鍵になるとも考えられた.さらに,記憶にはリハーサル回数が大きく作用してくると言える.つまり記憶対象の提示時間によって臨機応変に記憶方法を変化させる必要がある.

文献

1)飯山雄次:視差唱呼の効用と応用−その科学的背景−.安全.31 (12),1980,28-33.
2)芳賀繁:指差しが眼球運動に及ぼす効果-指差呼称によるエラー防止効果のメカニズム-.日本人間工学会第48回大会発表論文集.43,2007,140-141.
3)内藤宏,篠原一光・他:視空間的記憶への指差の影響.INSS JOURNAL.18,2011,21-27.
4)湯舟英一,山口高領:音読が語彙チャンクの記憶定着に及ぼす影響.Dialogue,12,2014,1-12.

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