卒業研究発表

脳幹出血により摂食・嚥下障害を呈した症例に対する誤嚥防止に寄与するパンフレット作成

― 一つの症例に個別アプローチする意義 ―

2015年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景

日本人の死因第三位は肺炎であり,その一因は誤嚥性肺炎である.誤嚥を防ぐため退院後も継続した支援が必要となるが,現在その支援は十分でない.事実,「退院後に約半数の患者が誤嚥を経験している」1)との報告もあり,誤嚥防止や摂食・嚥下機能への退院後の在宅支援に対する需要は高い.
言語聴覚士(以下ST)が在宅でも支援を続けることが理想であるが,在宅への介入は少ない.理由としてSTの不足や患者数の増加などが挙げられる.STがいない場合,家族や介護職員がパンフレットやマニュアルに基づいて在宅支援を行うが,一般化されたものでは患者個別のニーズに対応しきれない.指導を行う医療従事者からも「現在使用しているパンフレットの内容が適切であるか?との声があり」2),効果はあまり評価されていない.一般化されたものではなく個別のニーズに対応したパンフレットを作成・提供することができればより効果的な在宅支援に繋がると考えられる.
今回の研究では実際に在宅支援を行う施設に介入し,個別のニーズにアプローチするパンフレットを作成する.またSTがいない場面でも,個別のニーズに対応するパンフレットを使用することによる効果的な支援を行う意義を検討した.

方法

K市にあるデイサービスを訪問し.脳幹出血にともなって摂食・嚥下機能に困難を呈した症例を対象とした.計7回の介入では摂食・嚥下機能の評価および患者や家族のニーズに対応した口腔機能改善訓練や嚥下体操を実施した.さらに食事指導を行う中でパンフレット作成に必要と考えられる情報の収集を行った.

結果

・カルテからの情報や家族からの情報に加え,さらに詳細な患者像を掴むことで,パンフレット作成に必要な情報を選定することが可能となった.
・家族のニーズを確認することで,家族が希望する訓練等をパンフレットの内容に組み込むことが可能となった.
・訓練効果を経時的に確認することで、STが不在でも継続的な支援が必要であることを確認した.
・家族や施設職員に訓練の目的と効果を説明したことで,STが不在でもパンフレットを用いて一定の支援が可能であると示された.

考察

実際に介入したことで,患者や家族が必要とする情報を選定でき,STが不在の場合に患者を支援する家族や施設職員に対して訓練の効果や継続の意義を示すことができた.このことから個別のニーズにアプローチするパンフレット作成において,実際に介入する有効性が示唆された.青木3)は介護施設職員に対して行ったアンケート調査において,嚥下体操を行うために雑誌の切り抜き表を活用するよりも,STが介入した場合に体操のやりやすさ効率を実感したという結果からST介入の有効性を報告している.
また個別のニーズに対応したパンフレットを作成したことで,STが不在の場合でも効果的な訓練を提供できることが示唆された.
しかし今回のパンフレットに関して,その実用性は十分には検討できていない.作成のため介入した回数が適当であったのかについても,さらに検討を要すると考える.今後は,変化する患者のニーズに対応できるような実用的なパンフレットへの改善が望まれる.

まとめ

詳細な患者像を掴み必要な情報を選択することで,個別のニーズに合ったパンフレットを作成でき,ST不在時でもこれらのパンフレットを活用することで効果的な支援を継続して提供できると考える.

文献

1)山本麻美,長谷奈緒美・他:誤嚥防止指導を受け自宅退院した患者のコンプライアンスの実態,老年看,34.2003,17-19.
2)春日由美,伊藤智美・他:胃切患者への指導パンフレットの効果の検討,日本農村医学会学術総会抄録集.56(3), 2007,304.
3)青木淳:STの嚥下訓練は雑誌より有効か?-通所と入所のアンケート調査-,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会講演抄録.14(3),2010,288-640.

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