卒業研究発表

「かわいい」画像が短期記憶に及ぼす影響

2015年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

認知症の中核症状の一つに記憶障害がある.記憶障害があると,日常生活に支障をきたし,生活がしづらくなることが想定される.入戸野ら1)は,かわいい画像を見ると集中力が持続し,後の作業に影響を与え,結果,作業効率が向上したという研究結果が出ている.そして,杉原ら2)の研究では効率の良い作業遂行により,ワーキングメモリ機能の活性化につながるという研究結果が出ている.しかし,かわいい画像と短期記憶が直接的に関係する研究はされていない.安易に準備することが出来る画像を用いて短期記憶にアプローチ出来ることが証明されれば,認知症患者に対する治療として作業療法に役立つのではないかと考えた.本研究ではかわいい画像を見ることで短期記憶力の向上を検証した.

対象および方法

対象:本校作業療法士学科に在籍する学生,男15名女15名計30名を対象に実験を実施した.実験設定:幼い動物,成長した動物のカラー写真を各7枚用意した.手続き:対象者をランダムに15名ずつ2グループに分け,クロスオーバーデザインを用いて2回画像を提示する.幼い動物の画像から提示,成長した動物画像から提示する場合の2つに分け,かわいいと思う順番に並べて貰う.画像を提示した後に30個の二字熟語を覚えて貰い,それぞれ記憶した単語量の差を確認し,短期記憶の向上を比較した.
用語操作の定義:提示した単語は小学校5年生で習得する二字熟語とした.倫理的配慮:研究目的及び方法を口頭及び文章で説明を行い,同意が得られたもののみ対象とした.

結果

成長した動物の画像を見た後では平均6.1個,幼い動物の画像を見た後では平均7個になり,その差は0.9個であった.また,最も多く想起された単語量に差がでたものは,幼い動物の画像を見た後で,最大増加量は5個,最大減少量は2個であった.これらの結果をウィルコクソンの符号順位和検定で分析をおこなった結果,有意差が認められた(p<0.05).

考察

扁桃体は快・不快などの意義付けを行い,喜怒哀楽などの情動的反応を引き起こす.反応により基底外側核に刺激が伝わり,そこから帯状回や海馬へ直接投射する.海馬へ直接投射した際,情動が付加されたときの記憶の強化に関係することが証明されている3).つまり今回の実験では,かわいい画像を見ることにより,扁桃体が情動的反応を引き起こし,それが基底外側核を刺激し,帯状回,海馬へと伝わり短期記憶の向上に繋がったと考える.しかし今回想起できた個数に大きな差はみられなかった.これは人によって「かわいい」と感じる対象は異なるからではないかと考える.今後の展望としては,対象者が快感情を得られるものを聴取し,その画像を用いて検討する必要がある.

まとめ

かわいい画像を見た場合のほうが成長した動物の画像を見た場合に比べ単語を想起できる個数が多かった.これはかわいい画像を見ることで短期記憶が向上したと言える.しかしその差は大きくはなかった.

文献

1)Hiroshi Nittono,Michiko Fukushima,et al.:「The Power of Kawii:Viewing Cute Images Promotes a Careful Behavior and Narrows Attentional Focus」.2012.
2)杉原勝美,松下太・他:作業目標を効率よく達成する作業遂行が認知機能面に及ぼす影響,四条畷学園大学 リハビリテーション学部紀要.9,15₋19,2013.
3)鳥羽清治:脳卒中理学療法の理論と技術.メジカルビュー社,2013,18-19.

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