卒業研究発表

グレープフルーツの嗅覚刺激がWCSTに与える影響

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

リハビリテーション場面において,環境設定を工夫することで訓練の質をより高めることができないだろうかという部分に着目した.そこで,本研究では,アロマの精油による匂い刺激によって作業効率の向上がみられるかどうかを明らかにすることを目的とした.
グレープフルーツが作業に効果的な影響を与えた事がすでに前田ら1)の研究による研究で明らかにされている.また,生理的な変化として交感神経が優位となり,脳の働きが活発になったと推測されるという浅野ら2)の報告がある.以上の研究により,グレープフルーツ精油による匂い刺激は精神機能だけではなく生理機能へも刺激を与え,脳の働きを活性化させる.また,作業遂行にも効果があることが明らかになっている.

方法

机の上にPCを設置し,ウィスコンシン・カードソーティング・テスト(以下WCST)を2回実施する.1回目にアロマを嗅ぐグループと2回目にアロマを嗅ぐグループとに分けテストを行った.疲労度と気分についてのアンケートを実施した.

結果

WCSTの結果として,TE・PEMの低下,反応時間及び所要時間の短縮が確認された.しかし,ネガティブ面としてCAの低下,NUCAの向上もみられた.WCST全体にかかる所要時間の平均は,匂いなし群が135.43秒,匂いあり群が131.30秒であり,匂いを嗅いだ方の時間が減少した.また,WCSTの反応時間の平均は,匂いなし群が73.53秒,匂いあり群が70.27秒であり,匂いを嗅いだ方が掛かる時間が減少していた.この所要時間と反応時間,WCSTでの各項目に関してT検定を行ったが結果は出なかった.アンケートの結果,グレープフルーツを嗅いだ時の方が,疲労度の軽減,気分の向上がみられた.感想は,「いい匂い」が一番多かった.「リラックスできる」などの好意的な感想の他,「お腹がすいた」「イラッとした」などの感想も見られた.

考察

WCST項目の結果比較に有意差は見られず,匂い刺激による前頭前野の賦活には至らなかったと考える.気分の向上など気分変容が起こったことに関しては,倉橋3)らによると扁桃体は情動や好き嫌いと関係する中枢と言われ,匂いによって気分が変わると示唆されている.このことから今回のグレープフルーツの匂いは扁桃体に作用し,気分の変容を起こしたのだと考えられる.また,アンケートの結果から「リラックスできる」などの感想の他,「お腹がすいた」「イラッとした」などの感想がみられ,扁桃体の働きとして匂いの好き嫌いに個人差が出たのではないだろうか.
グレープフルーツの匂いに対して好意的な感想が多かったことから,臨床現場においても,導入時のリハビリ意欲向上への効果が期待できるのではないか.しかし,前述したようにグレープフルーツの好みには個人差が出ると考えられ,事前に好き嫌いの聴取を行い,対象者に応じて匂いの変更を行う必要があると考える.

改善点

教室という広い室内で実験を行ったことにより,アロマの匂いが充満せず,空間へ散布しているだけで直接の吸引ができなかった為,十分な匂い刺激が入らなかった.その為,より狭い空間で匂いを十分に充満させる,あるいは直接的に匂いを吸引できる酸素マスクなどを用いることが必要である.
また、WCSTで賦活されるといわれる外側前頭前野背外側や底部前頭前野がグレープフルーツの匂い刺激では賦活されなかったのではないかと考えた.その為,匂いの変更を行う,あるいは検査方法の変更を行い,遂行機能以外の注意機能など別の視点から匂いや検査を選定することが必要であると考えた.

文献

1)前田紗代,浦麻美.匂いが作業へ及ぼす効果とその影響~3種の芳香剤による計算能力の変化~.大阪医療福祉専門学校卒業研究集.2007,25-28.
2)浅野智絵美,伊藤輝子・他:グレープフルーツおよびラベンダーの匂い刺激による生理・心理機能への影響.日本味と匂学会誌,2009,633-636.
3)倉橋隆,福井寛・他:トコトンやさしいにおいとかおりの本.日刊工業新聞社,東京, 2011.

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