卒業研究発表

咀嚼が注意・集中機能に与える影響

2015年度 【言語聴覚士学科】 口述演題

背景・意義

咀嚼には唾液分泌による消化吸収の促進,頭頸部の骨や筋肉の発育促進,肥満防止,脳の活性化などの効果がある.特に脳の活性化に関しては,昨今の高齢社会の到来によって認知症やアルツハイマー病など脳疾患の問題が増加している故に咀嚼が脳機能に及ぼす影響について,関心が高まっている.
主に咀嚼は脳内血流量の増加や大脳皮質の活性化を生起し,注意・集中機能の向上と記憶の促進に繋がる効果があるとされている.このことから咀嚼が脳疾患の予防になると考え,咀嚼と注意・集中機能の関連性について研究した.

対象・方法

対象者は大阪医療福祉専門学校言語聴覚士学科の学生43名(1年生20人,2年生23人)を対象として,各学年2日間にわたり実験を行った.
実験内容はwais-Ⅲ,wisc-Ⅳに収録されている符号問題とCATに収録されているPaced Auditory Serial Addition TEST(以下,PASAT)の2秒提示と1秒提示を使用した.1日目は符号問題とPASATのみを実施し,2日目はそれぞれを実施する前に2分間ガムを咀嚼してもらった.速度はメトロノームを使用し,1分間に100回の速さに設定した.
符号,PASATの2秒間隔,1秒間隔の全てにおいて咀嚼有で正答率が上昇し,咀嚼の有無で有意差が見られた(p<0.01).注意検査別の正答率を図1に示す.また,検査後のアンケートでは約60%が「ガムを咀嚼した後集中力が向上したと思う」と答えた.

考察

酒井ら(2014)は,咀嚼により前頭前野と中心前後回下部等の広範囲で脳血流が増加すると言っている.さらにTakadaら(2004)は,注意・集中機能は主に,前頭前野を中心に認められるとしており,咀嚼による脳血流量増加部位と注意・集中機能に関与する脳の主要部位が重なる.よって,咀嚼により注意・集中機能が向上したと考える.

まとめ

咀嚼が高次脳機能に及ぼす影響は大きく,注意・集中力を維持するためには口腔機能の維持・ケアを継続的に行う事が重要である.その中で今後,認知症への予防が期待される.
言語聴覚士として,咀嚼の効用を意識した口腔ケアや嚥下訓練に従事し,認知症の予防のみならず,記憶力・学習能力などの高次脳機能障害への訓練効率の向上へとつなげられるよう,発展したアプローチをする必要がある.

文献

1)酒井浩,河内山隆紀:PASATの課題難易度と脳賦活部位の変化.作業療法ジャーナル.48,2014,1255-1262.
2)Takada T,Miyamoto T: A front-parietal network for chewing of gum: a study on human subjects with functional magnetic resonance imaging. Neurosci Lett,360: 2004,137-140

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