卒業研究発表

優秀演題

両人工股関節全置換術後の症例

― 股関節伸展他動可動域は変化しなかったが歩行周期では改善を認めた症例 ―

2015年度 【理学療法士学科 昼間部】 優秀演題

背景

右人工股関節全置換術(以下THA)施行後, 早期に歩行を獲得したが, 歩容改善に難渋した. したがって, 歩容改善のため, 右立脚後期の股関節伸展に着目し, 治療を行ったのでここに報告する.

症例紹介

症例は70歳代女性, 術前ADLは様々な工夫をこらして自立しており, 家事動作も全て一人で行っていた. 臼蓋形成不全による変形性股関節症と診断され, 昨年左THA, 今回右THA施行となる.
術後2週目には歩行期歩行, 3週目にはT-cane歩行を獲得したが, 歩容が問題点として残った.

評価と治療

術前日に初期評価, 術後24日に最終評価を行い, 1週ごとに歩行動画撮影を行った. 術後1週の歩行動作では右LR~Tstにかけて股関節伸展が減少, 骨盤右回旋が生じていた. 股関節伸展他動可動域はで右10°, 左15°であった. MMTでは股関節伸展が右3, 左4, エリーテスト陽性, 腸腰筋伸張性も低下していた. 腸腰筋は本来, 歩行においては, 立脚中期を境に遠心性収縮することで重心の前方移動を制動, 反対側立脚初期には求心性収縮し, 遊脚期のエネルギー供給を行う.
本症例では変形性股関節症に伴い腸腰筋, 大腿直筋の伸張性低下が生じており, 右LR〜Tstでの股関節伸展が減少, 骨盤右回旋が生じていたと考え, 右股関節伸展促通の為, 右股関節伸展他動関節可動域訓練を実施した.

結果

最終評価時には右股関節伸展他動可動域は10°と変化はみられなかったが, 歩行では矢状面にて右LR〜Tstにかけてみられていた骨盤右回旋は改善された. また, 2次元動作解析ソフトKinoveaを使用し, 右股関節伸展角度を計測したところ, 術後1週は平均-6°であったのに対し, 術後4週では11.3°と改善が見られた.

考察

本症例の股関節伸展減少の原因として, 変形性股関節症に伴う腸腰筋, 大腿直筋伸張性低下が考えられる. これらの原因に対して, 術後3日目〜2週目までは右股関節伸展の他動関節可動域訓練を行ったが, 股関節伸展他動可動域は右10°と術前, 術後1週と比較して変化が見られなかった. 原因として, 術前の痛みによる防御性収縮が, 術後痛みが消失した後にも残存している可能性が示唆された.
これより, 歩行時右立脚後期を意識したCKCトレーニングを実施したところ, 右股関節伸展他動可動域に変化はみられなかったが, 歩行時右立脚後期の獲得に至った. 理由として, 歩行右立脚後期における股関節伸展の状態について, 鏡や動画を用いて視覚と体性感覚のフィードバックを実施した事により, 腸腰筋と大腿直筋の防御収縮を自己調整し, 股関節伸展角度の修正を行ったと考える. また, 歩行動作を通じて股関節伸展自動運動の誤差学習を行ったために、腸腰筋と大腿直筋の過剰な防御収縮の抑制を学習し, 右立脚後期股関節伸展の改善につながったものと考える.

結語

術前からの痛みにより防御収縮を学習している状態で他動での関節可動域訓練を行うことで, 防御収縮が生じてしまい角度が得られないという現象が生じた. しかし自動, CKCでの動作練習をおこなうことで, 痛みが生じない範囲での筋の協調的な収縮を学習し, 立脚期における股関節伸展角度の拡大が得られたと考えた. これより, THA術後における術後早期の他動的関節可動域訓練は防御収縮の学習を促してしまう可能性があるため, 慎重に実施すべきであり, 自動での動作練習を行うことが関節可動域改善に有効であると考えます.

文献

1) 石井慎一郎.:動作分析臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実際.メジカルビュー社,東京,2013,188-189.

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