卒業研究発表

周辺症状から学ぶチームアプローチの大切さ

― 作業療法士と介護士の捉え方の相違 ―

2015年度 【作業療法士学科 昼間部】 口述演題

はじめに

認知症高齢者の行動・心理症(以下,BPSD)は,本人を苦しめるだけでなく介護者の介護負担や介護ストレスを増大させる原因となりうると指摘されている1).集団的な処遇になじめないことが多く認知力が低下しているため意思疎通が困難となり,施設利用の場合は,暴力や暴言などのBPSDが他の高齢者にも影響を及ぼす可能性があると指摘されている²⁾.そこで本研究は老人保健施設,特別老人保健施設,病院における作業療法士(以下,OT)と介護士の認知症高齢者における対応の相違を13項目のアンケート調査により明らかにする.二職種の異なる視点から患者を把握し,患者の求める生活に配慮した高次の目標を共有化するための一資料とすることを目的とする.

対象および方法

老人保健施設,特別老人保健施設,病院に勤務しており認知症患者との関わりがある,経験年数が3年以上10年未満のOTと介護士のうち,研究への同意が得られたものとした.アンケートによって得られた性別,年齢,職種,経験年数データをX²検定にて統計を行った.尚本研究は,大阪医療福祉専門学校倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:大医福 第15-教-1号).

結果

対象者198名のうち,有効回答数は120名(61%)であった.対象者の就業する施設は,老人保健施設,特別老人保健施設,身体障害領域の病院で,OTの有効回答数は56名で平均経験年数は6.5年であり男性25名,女性30名,計55名であった.介護士の有効回答数は64名で平均経験年数は6.3年であり男性22名,女性38名,計60名であった.アンケート結果は,徘徊:両群共に「タイミングよく声を掛ける」,帰宅願望:両群共に「何故帰りたいのか話を聞く」,同じ話の反復:OT「場を変えて関心をそらす」介護士「他の話題をもちかける」,作話:両群共に「話しに相槌をうつ」,物盗られ妄想:OT「問いかける」介護士「一緒に探す」,幻覚:OT「訴えを受け止める」介護士「手を握って安心させる」,入浴拒否:両群共に「気分の良い時を待って入浴を勧める」,不潔行為:両群共に「排泄時間を把握しトイレ誘導」,尿失禁:両群共に「2時間おきにトイレに誘う」,夜間不眠:両群共に「日中に活動の機会を多くする」,性的逸脱行為:OT「他の話題や作業に誘う」介護士「慌てず衣類を穿かせる」,乱暴・暴言:両群共に「落ち着いて鎮める」,うつ状態:OT「傍に寄り添う」介護士「失敗を叱らない,傍に寄り添う」が多くみられた.

考察

文献上望ましくない対応を選ぶOTはほとんど見られず,OTは認知症やうつ状態などの病態を理解し,適切な対応を選択していた.このことから,OTは知識に基づき症状や疾患に対し対応していると考える.
また介護士の対応は,先行研究と同様に大半の職員が文献上基本的対応方法を選択しているが,一部の職員は望ましくない対応を選択していた.そして,4つの問い全てに選択する傾向がみられ,介護士間でそれぞれ対応の仕方が異なっている事が分かる.このことから,先行研究を支持する結果となった.また患者と長い時間を共にしている為,日常生活活動に近い選択肢を選択している傾向にあり,介護士は即座に必要な対応をしていると考える.これらのことからOTと介護士が認知症のBPSDにチームとして関わるためには,患者の状態像をOTが評価し,介護士と共有することが望ましいと言える.しかしながら,介護士の業務形態に合わせた対応でないと現実的に実施するのは難しいと考える.

まとめ

OTは周辺症状に対し疾患や症状の知識を用いることにより,患者にとって精神的・身体的負担が少なく,介護士は個々の日常生活パターンを把握している為,患者に合わせた対応が可能である.これらを共有する事でチームアプローチに繋がると示唆される.

文献

1)鄭尚海:認知症の行動・心理症状(internet):http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009.05/dl/s0521-3c_0006.pdf
2)佐藤八千子,小木曽加奈子:介護老人保健施設における認知症高齢者のBPSDに対するケアの困難性.岐阜経済大学論集.46(1),2012.

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