卒業研究発表

園芸活動における脳科学的分析

― 苗の移植作業による前頭前野への影響 ―

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

先行研究によるとアルツハイマー型認知症患者が土を混ぜ,花を植えるなどの園芸活動を行ったところ,前頭前野の脳血流が増加し,特に優位半球の前頭前野の背外側部の賦活を促している可能性があるとされる.これらのことから園芸活動を脳科学的分析により効果を新たに検証し,脳機能の面から効果を検証し,今まで園芸活動が行われていない障害にも園芸を作業プログラムとして考えられるように作業療法士の園芸活動の推進を促すことを本研究の意義として行う.

対象および方法

対象は同意が得られた本校作業療法士学科で右利きの学生約30名に本研究の趣旨を説明し,無作為に介入,非介入群に分けた.本研究の流れとしては実験前後にアレルギー,園芸,WCSTの経験,興味に関するアンケートやPOMSの項目にある「緊張」,「抑うつ」,「怒り」,「活気」,「疲労」,「混乱」の6項目による気分の評価をVASによって行い,前後の比較を行った.アンケートは先行研究を参考に独自で作成したものを使用した.
本実験における園芸活動では先行研究を参考に①土を混ぜる課題②土を入れ,苗を定置させる課題③苗の移植課題の3つの工程に分けて,時間を10分に設定し行った.その後,WCSTを行い2群のCA,NUCA,TE,PEM,PENの5項目の比較を行った.

結果

介入群と非介入群でのWCSTにおける結果をT検定により検証したが,いずれも非有意(p>0.10)であった.VASによる研究前後の「緊張」,「抑うつ」,「怒り」,「活気」,「疲労」,「混乱」の値をT検定により検証したが,有意差(p>0.05)は認められなかった.その他項目として,「活気」,「混乱」の値では非介入群の活気(P=0.041),混乱(P=0.070)において負荷的な変化がみられた.

考察

従来,脳機能としては作業活動の創造性が前頭前野領域の脳賦活に影響を及ぼすとされている.今回の実験では研者が園芸の手順を統一し実験を行ったため,作業に対する創造性,手順の計画に対する脳賦活が少なくWCSTの結果として数値の影響がなかったと考えられる.また本研究では個人で行ったが,他者と共に課題を行う方が左半球の脳血流量に影響を及ぼすとされている.
また先行研究によると園芸の作業時間は2時間が望ましいとされているが,本実験では被験者の疲労,時間による気分変化の影響を考慮し,活動時間を10分に設定し実施した.そのため園芸活動の時間の縮小による生理,心理面への効果が減少し有意差がみられなかったと推察する.また本研究では植物の管理が容易であり,有毒性がなく人体にリスクの少ない植物としてガザニアを使用したが,ガザニアは日光を浴びることで,花を咲かせる習性がある.苗の移植作業において,花がある方がVASの値の減少が著しいとされていることから,実験日の天候,室内で作業を行ったことで花の開花が変化し,「緊張」,「抑うつ」,「疲労」の有意差がなかったと考えられる.「活気」,「混乱」での非介入群の数値的変化は介入群の園芸活動によるマイナス気分における変化の緩和と非介入群の園芸活動を行わなかったことでWCST評価における精神的負荷が強く出現したことが影響であると推察する.よって今後は,創造性の高い園芸活動を集団で行い,時間を延長,屋外で行うことが望ましいと考えられる.

まとめ

①目的:園芸活動の前頭前野における脳科学的分析を行うことで作業療法士の園芸活動の推進を促す.
②方法:同意を得られた本校の作業療法士約30名を対象に,無作為に介入群,非介入群に分け,介入群には園芸活動とWCST,非介入群ではWCSTを行い,2群比較を行いアンケート,WCSTを実施.
③結果:WCSTにおいて有意差は見られなかった.
④結論:今後の課題として園芸活動における時間,自由度,屋外への変更が望ましいと考えられる.

文献

1)豊田 正博:脳科学の視点から園芸療法を考える.作業療法ジャーナル.45(7),2011,805-807.

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