卒業研究発表

床材の違いによる足底刺激が前方リーチ動作時の立位バランスに与える影響

2015年度 【作業療法士学科 夜間部】 口述演題

背景

作業療法士は住宅の環境設定を行うことで,高齢者の転倒予防に努めている.平成25年の厚生労働省の国民生活基礎調査によると,要介護別にみた介護が必要となった主な原因のうち,要支援1では「骨折・転倒」が第3位となっており,骨折は高齢者の寝たきりとなる重大な要因の1つとなっている.その為「骨折・転倒」の予防は,高齢社会において取り組むべき課題であり,作業療法士はその環境調整に努める必要がある.転倒による骨折を防止するためには立位姿勢制御が大変重要であると考えられる.立位姿勢を保持している健常者の主要な感覚入力は,床面と接している足底部の体性感覚によって為されている.そこで私たちは,日常で使用している床の素材の違いによっても,立位バランスに影響を与えるのではないかと考えた.そして一般家庭で使われている床材の素材選びによって立位バランスを向上させる事ができるのであれば,床材選びにより高齢者が転倒しにくい環境作りに役立てるのではないかと考えた.本研究では,一般家庭で使われている床材(麻マット,フローリング,絨毯)による足底刺激の違いが,動的立位バランスに与える影響について明らかにし,安易に転倒対策できないかということを検討した.

対象および方法

対象者は,大阪医療福祉専門学校の作業療法士学科に在籍する健常者で,整形外科学的,神経学的に疾患が認められない男性13名,女性17名の計30名を対象に実験を実施した.研究方法は,被験者の肩峰と第三中手骨頭の位置を確認し, ホワイトボードの横で立位となりファンクショナルリーチテスト(FRT)を行う.スタートポジション時の第三中手骨頭とリーチ後の第三中手骨頭の移動距離をメジャーにて測定した.

結果

研究結果において,距離の平均値では,麻マットが26.38cm,フローリングが23.52cm,絨毯が22.54cmであった.また,フリードマン検定・多重比較にて算出した結果,有意差を認めた.フローリングと絨毯においては有意差が認められなかった(図1).

考察

麻マットが優位な理由として,フローリングマット,絨毯は足底全体に触圧覚が加わるのに対し,網目の間隔が1~1.5cmで足底に触圧覚が加わる.大久保ら1)によるとmechanoreceptorが一様に接地足蹠面皮膚で刺激された場合,1cm間隔と1.5cm間隔の板上では,閉眼時の動揺に著明な動揺面積,動揺速度の縮小や減少が無刺激に比較して認められた.これらの事から麻マットは網目の1~1.5cm間隔で足底に触圧覚が加わり,動揺面積,動揺速度が減少したと考える.その結果として,麻マットに優位差が認められた事が考えられる.

まとめ

現代の社会では高齢者の寝たきりとなる要因に,転倒による骨折が挙げられる.日常生活動作の中には,キッチンの奥に置いた物をとる動作や洗顔の際,前方リーチ動作時に動的立位バランスを必要とする機会が多い.その際の転倒防止として足元に麻マットを敷く事で,動的立位バランスが安定する事が考えられる.また作業療法士は,身体のリハビリテーションのみでなく,足底への適度な感覚刺激や足趾で把持しやすい麻マットなどの床材選びにより,環境面等にアプローチする事でお金をかけずにちょっとした工夫で,高齢者の転倒予防できる可能性があるのではないかと考えられる.

文献

1)大久保仁,渡辺勈・他:足蹠圧受容器が重心動揺に及ぼす影響について.耳鼻臨床.72(11),1979,1553~1562.

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