卒業研究発表

間質性肺炎,廃用症候群を呈し酸素投与を要する症例

― 阻害因子となった注意機能の低下について ―

2015年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

間質性肺炎,廃用症候群を呈した症例の日常生活動作の自立に向けて理学療法を行った結果,身体機能の改善は認められたが,精神機能の問題により自立することが困難であった.その阻害因子として,注意障害に着目し,更にその質的因子について検討を加えたのでここに報告する.

症例紹介

70歳代前半の女性,2年前に間質性肺炎の急性増悪と診断され,酸素投与要となった.既往歴は右肺扁平上皮癌,高血圧症,頸椎症などがあり,今回は,加齢に伴う注意機能の低下が問題として残った.

評価

トイレ動作において,片手手すり支持にて車椅子から移乗する際の立ち上がり,手を持ち替えながらズボンの着脱を行う際の立位保持において,左後方へふらつきやすく不安定であるため,平行棒内で 立ち上がり動作と立位保持機能の評価を行った.

経過および結果

上記疾患による呼吸機能低下,筋力低下など身体機能の低下に対して,口すぼめ呼吸や筋力増強運動,立ち上がり動作・立位保持などの練習を実施した結果,身体機能に向上が認められた.しかし,実際にはトイレ動作の自立に至らず,見守りが必要となった.その要因として,せっかちな性格,評価・治療中に動作を誤魔化すこと,病識の低下,酸素チューブの管理低下,車椅子のブレーキ忘れ,車椅子自操時に壁にぶつかるなどのepisodeがあり,見守りとなったため,注意機能に着目し,仮名拾いテスト3)にて同機能について評価を実施したところ,注意機能の低下を認めた.

考察

本症例は,トイレ動作だけでなく,食事・整容・更衣・清拭・移乗などにおいて,出来るADLと,しているADLに差が認められた.加齢に伴い,身体機能だけでなく注意機能にも低下が生じるが,両機能に対して治療を行うことで動作能力に好影響を及ぼすことが報告されている1).身体機能に対して理学療法を実施した結果,改善が認められたが,注意機能に対しては早期から治療を実施しておらず,トイレ動作自立を阻害する因子が残存したものと考える.また,今回は注意機能の中でも,注意の分割4)や反応能力2)などの影響が考えられ,これらの注意機能に対しての評価・治療が重要であると考える.

まとめ

本症例のように注意機能の低下が阻害因子となり,出来るADLとしているADLに差が生じている場合には,身体機能だけでなく,注意機能の影響も考えられ,その質的因子(集中,持続,転換,分割,これらの統合機能)を特定し,質的アプローチを行うことによりADL動作改善に繋がる可能性が示唆された.

文献

1)山田実:注意機能トレーニングによる転倒予防効果の検証.理学療法科学24(1),2009,71-76.
2)尹智暎,大藏倫博・他:高齢者における認知機能と身体機能の関連性の検討.体力科学.59,2010,313-322.
3)金子満雄ら:日本医事新報,No.397:28,1989.
4)特集 さまざまな視点からの予防転倒プログラム(internet):
http://www.tsuusho.com/rec-reha/intro- duce/pdf/seo3.pdf

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