卒業研究発表

対側広背筋に対してのアプローチで歩容が改善した症例

― 右立脚中期の体幹右側屈に着目して ―

2015年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

右人工股関節全置換術(THA)を施行前より,右立脚中期(MSt)に体幹右側屈がみられ,術後も同様の跛行が認められた症例に対し,広背筋へアプローチを行なった結果,歩容の改善に至ったためここに報告する.

症例紹介

症例は60歳代の女性で,右THA施行1か月前に両変形性股関節症と診断された.術前ADLは自立していた.術中・術後経過良好であり,術後1日目から全荷重が許可された症例である.

評価と結果

術後4日目から初期評価,術後17日目から最終評価を行なった.初期評価時の歩行観察で前額面にて,右MStで体幹右側屈が認められた.股関節外転筋筋力は,大腿筋膜張筋・中殿筋ともに右側で2と筋力低下が認められた.そのため,股関節外転筋筋力低下によって歩容の問題が起きていると考えた.
そのため,中殿筋・大腿筋膜張筋の筋力増強運動を実施すると筋力に改善は認められたが,歩行時の問題として挙げていたMStの体幹右側屈に変化は認められなかった.そこで,ヤンダアプローチより患側大殿筋と対側広背筋のスリングに着目した1).初期評価の結果より,右大殿筋の筋力が2・左肩関節外旋可動域の制限が認められた.しかし,患側大殿筋の筋力低下は手術侵襲による影響が大きいと考えられ,その修復には長期間を要するとされている2).よって対側である左広背筋に着目し,左広背筋のストレッチを行なった結果,左肩関節外旋可動域が改善し,歩容の問題点として挙げていた体幹の右側屈が改善した.

考察

大殿筋は,IC~LRで活動がみられ股関節屈曲モーメントを制御する役割がある.また兵頭は歩行の際,両脚支持期へ移行するには中殿筋と大殿筋上部線維の筋活動が重要だと述べている3).これらより安定した歩行立脚期を得るために大殿筋が必要なことがいえる.そのため,対側広背筋をアプローチし大殿筋との機能的連結を改善させることで,大殿筋の筋出力が発揮しやすい状態を作ることができ,それと同時にIC~LRで大殿筋の活動がみられ,安定した歩行立脚期を得ることが出来た結果,問題点として挙げていた右MStの体幹右側屈が改善したと考える.

結語

THA術後は股関節の除痛・アライメントの改善がなされる.しかし,術前からの歩容の問題が残った.そこで外転筋にアプローチを行なったが,改善が見られず体幹筋である広背筋にアプローチを行なうと歩容の改善が見られた.体幹の側屈がみられる原因として股関節の外転筋筋力の問題が挙がるが,下肢に捉われず体幹など上肢の問題も重要だということを知ることが出来た.

文献

1)小倉秀子.ヤンダアプローチ マッスルインバランスに対する評価と治療.三輪書店,東京,2013,35-38.
2)Vissers et al:Recovery of Physical Functioning After Total Hip Arthroplasty:Systematic Review and Meta-Analysis of the Literature.Physical therapy .91(5),2011,615-629.
3)兵頭甲子太郎:一側下肢への荷重量変化に伴う股関節周囲筋の筋活動変化.理学療法学.23(5),2008,671−675.

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