卒業研究発表

Ⅱ型糖尿病末期患者の下肢障害を呈した症例

― 糖尿病の理学療法について検討する ―

2015年度 【理学療法士学科 昼間部】 口述演題

背景

今回,臨床実習にてⅡ型糖尿病末期患者を担当し,歩容の改善に至ったためここに報告する.

症例紹介

本症例は70歳代女性,術後の頸椎症と腰部脊柱管狭窄症が併存疾患である.糖尿病性神経障害,腎症が合併症として出現している.インスリン注射によって血糖コントロールが出来ていたが,血液透析導入が間近であるとの事だった.また、血液検査にて尿素窒素が66.5mg/dl との結果が出ており、糖尿病が末期である事が考えられる.

評価と治療

初期評価の歩行にて体幹が前傾しており,右立脚中期に右膝のロッキングがみられた.MMTで右大腿四頭筋筋力2,右下腿三頭筋筋力2+であった.またROMでは右足関節背屈-5°,右大腿四頭筋,右下腿三頭筋に痙性が出現している.大腿四頭筋,下腿三頭筋の機能低下また腹部筋の機能低下が上記の歩容を招いていることが考えられる.
問題点で挙げた大腿四頭筋,下腿三頭筋の2つの筋であるが,アンダーソンは罹患5年以上のⅡ型糖尿病患者では末梢優位(足>膝)の筋力低下を認め,膝伸展筋力も低値であり,また糖尿病性神経障害が存在している場合ではより膝伸展筋力は有意に低下すると報告している¹⁾.よって本症例での機能障害は併存疾患と糖尿病によるものが歩容に関与している事が考えられる.以上の問題点に対して改善を図り,リラクゼーション,腹式呼吸,平行棒による立ち上がり練習,歩行練習をアプローチに取り入れた.

結果

最終評価時の歩行において右立脚中期にみられていた右膝のロッキング,体幹の過度な前傾は軽度軽減した.また,検査結果においてROM,筋の緊張に変化はみられなかったが,MMTで右大腿四頭筋筋力が2から3へと軽度の改善を認めた.

考察

最終評価では歩行時の右膝のロッキング,体幹の前傾に改善がみられた.この要因としては右立脚中期に右大腿四頭筋の活動量が向上した事が考えられる.また,腹式呼吸において横隔膜に対してアプローチした事も体幹の抗重力伸展活動を軽度ではあるが可能にしたのではないかと考えた.
横隔膜の作用として呼吸が主に挙げられるが,体幹の固定性にも働く腹部のインナーマッスルである.上・下肢の運動前に収縮を始め,体幹の固定性に作用する²⁾.よって右大腿四頭筋,腹部筋の機能向上が歩行アライメントの変化に至ったと今回考察した.

まとめ

今回,Ⅱ型糖尿病末期患者の歩行アライメントに着目した.本症例では,併存疾患と糖尿病が歩行時の抗重力伸展運動を阻害しており,逸脱した歩容を招いていたためアプローチを行ったところ改善がみられた.現在,糖尿病の理学療法として有酸素運動が推奨されている.しかし,PTとして糖尿病に合併される運動器障害に対してアプローチしなければならない事が今回,示唆された.糖尿病は「内部疾患」という概念でこれまで理学療法を進められてきたが,今一度糖尿病の理学療法を見つめ直す事が必要である.

文献

1)野村卓生:糖尿病患者の運動障害に対する臨床研究と理学療法介入.理学療法学.40(8),2013,696-702.
2)河上敬介,菅原仁・他:体幹筋の解剖学的理解のポイント.理学療法.23(10),2006.1351-1360.

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