卒業研究発表

優秀演題

高次脳機能障害患者様及び周囲の方々の声を基に作成したパンフレット

2016年度 【言語聴覚士学科】 優秀演題

背景

 高次脳機能障害とは,脳が損傷を受けたために,言語,行為,認知,記憶,注意,遂行機能,社会的行動などの高次の精神活動が障害された状態であり(藤田等,2015),医療従事者には広く認知されている.しかし,社会一般には広く知れ渡っていない.起こり得る症状,当事者への関わり方等,周囲の方々には不明瞭な事が多いと考えられる.
 本研究では,当事者様のご家族及び身近な方々に向けて高次脳機能障害の原因や起こりうる多様な症状などの啓発パンフレットを作成する.症状や特徴等を知り,それらに目を向けることは無論重要であるが,それだけではなく症状の現れ方は多様であるので,個人をよく理解した上で対応を考えていく必要がある.作成に際しては,これらの観点を踏まえる.

研究協力者

S市のデイサービスの当事者A様,デイスタッフ様

方法

➀施設を訪問し,2日間を通してご利用者様と関わる.
➁日常において当事者が困っていること,またそれに対する周囲の関わりを観察する.
➂観察を通して気づいたことを,グループでディスカッションする.
➃得た考察を基に,パンフレットを作成する.
➄パンフレットの有用性について,専門家を交えて再度ディスカッションする.

結果

 デイサービスへの訪問を通し,A様やスタッフの方々から困っていること等を詳細に伺うことができた.私たちの観察からも,A様には注意障害,記憶障害,身体失認等の多様な高次脳機能障害が見られた.それらを基にパンフレットを作成した.本パンフレットのタイトルは「みんなで考えよう高次脳機能障害」,項目は,「1.はじめに」「2.高次脳機能障害とは/症状の見えにくさ」「3.主な原因」「4.主な症状」「5.こんなときどうする?」「6.こんな症状が出始めたら…」「7.家族で一緒に10の再発予防」「8.みんなでできるお手軽ストレッチ」である.
(パンフレット内容)

考察

 A様の高次脳機能障害は,2日間の中で捉えられたものもあったが,一方で,A様自身のパーソナリティと判別がつかないものも存在した.医療従事者でさえ不明瞭である点が多いため,医療従事者以外にとっては,障害とパーソナリティとの区別はより困難であると考えた.そのため,医療従事者以外の方々に対して情報を発信する際には,専門的・抽象的な用語を避け,具体的で噛み砕いた言葉を用いる工夫が必要であると考えた.そして,パンフレットを作成する際には,単に病気の症状や特性を伝えるだけではなく,病気発症の徴候,生活習慣の改善を中心とした再発予防法等を掲載することで,予防医療に貢献することに大きな意義があると考えた.
 A様の事例を取り上げたことにより,高次脳機能障害についてのより具体的な説明が達成され,読み手にとっても身近なパンフレット作成が可能となった.

まとめ

今後,医療従事者以外の方々にも本パンフレットを配布し,アンケート調査や実際の聞き取り等から意見を聴取し,有用性について確認する.それを踏まえて,実際に当事者様のご家族及び身近な方々に配布することを展望とする.本パンフレットが高次脳機能障害者と関わる際の視点の手掛かりになることを望む.

文献

藤田郁代:標準言語聴覚障害学 高次脳機能障害学第2版. 医学書院,東京,2015

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